ひとりふらふらしながら、寄り道した本屋を出る。参考書のついでに、昨日発売された小説を買った。
 まっすぐ帰る気分になれなくて、少しだけ風に当ろうと公園へ向かう。

 人影のないブランコで揺れながら、本を開いた。文字を追いながら、視界に人の気配を感じて目線を上げると、誰かが海賊船の前に立っている。
 学ラン姿の同い年くらいの男の子。明るめのアッシュがきれいになびいて、じっと中を見つめている。何してるんだろう。

 知らぬふりをして、顔を隠すように本を立てた。キーキーと響くブランコの音が小さくなって、地面を強く踏み締めて止める。
 ここでは落ち着かないし、そろそろ帰ろうかな。
 立ち上がったとたん、目の先にスニーカーのつま先が見えた。顔を上げると、さっきの男の子が私に向かって。

「……ねえ、今暇?」

 急に声を掛けられて驚いたのか、上がったはずのお尻は再びブランコへ下りて、磁石でくっついたみたいに動けなくなる。
 よく見ると髪の隙間からピアスがチラついて、ヤンチャそうな身なりをしている。私が一番苦手とするタイプの人。
 カタカタと手足が震えて何も答えられないでいると、さらに彼が前へ出た。

「……い、今帰るところです」

 何か言おうとしていたけど、遮るように小さな声を上げる。蝶の羽音にも満たないような大きさで、聴こえているかさえ定かではない。

 男子は──、特にクラスで目立つような人は苦手。存在そのものの威圧感や声の調子だけでも足が竦む。
 小学生の時にからかわれてから、そんな意識が染み付いている。

 早く立つの。早く逃げ去ろうと意を決して、土を跳ね上げたとき、ニャアとか細い声が聞こえた。彼の後ろからひょこっと顔を出したのは、手のひらに乗るほどの子猫。その怯えた様子は、まるで自分を見ているようだ。

 分かるよ。小さくなって、何に対しても心を閉ざしたくなるの。