「帰りなよ。門限、とっくに過ぎてるだろ。俺も、そろそろ帰る」

 言いながら立ちあがると、宮凪くんがひらひらと手を振る。

「あ、あの……、一緒にいてくれて、ありがとう」

 勢い任せに家を飛び出して、本当は不安だった。ずっと一人で公園にいたら、心が押し潰されていたかもしれない。

「蛍なら大丈夫。勇気待て。……じゃあな、頑張れよ」

 先に川沿いの坂を上ると、石橋の終わりでキョロキョロしているお母さんと出会した。すぐ私に気づいて、有無を言わさず抱きしめられる。
 溜め込んでいたものが一気に溢れ出して、お母さんの背中にしがみつく。じわりと涙が滲み出て、止まらなかった。

 家へ帰ってから、お父さんも交えて家族会議が行われた。まずは、夜遅くに出歩いたことに注意を受ける。涙目のお母さんを前にしたら、素直に謝るしかない。お父さんも真っ青な顔をしていて、心配かけてしまった。

「見つかってよかった。警察へ電話しようか迷ったんだ。帰ってきてくれて、本当によかった」
「ごめんなさい」

 ポンと頭を撫でられて、大きな手に安心する。
 改めて向かい合い、お父さんが静かに話し始めた。

「ちゃんと、話をしよう。どうしてこうなってしまったのか。みんなそれぞれ、言いたいことがあるだろう」

 となりのお母さんは、黙ったままだ。何か言ったら、また私が壊れて逃げ出すとでも思っているのかもしれない。
 脚の上で握ったこぶしに、ギュッと力を入れる。

「……私、合唱コンクールの日にちも、曲も、全部知ってた。でも、言いたくなかったの。練習でも、下手で、全然、声が出なくて……私は、いてもいなくても、変わらないから」

 一気に吐き出すと、少し息が荒くなった。やっと言えた。
 でも、話したいことは、これだけじゃない。
 肝心な部分は、やっぱり上手く言葉にできない。