ジャリジャリと白い道を進んで、小さな消波ブロックの前に腰を下ろす。月明かりが照らす水面は、ゆらゆらとキレイ。
 目を閉じて空気を吸い込む。ここにいると、嫌だったことを全部忘れられた。ゆっくり瞼を開く。風に揺られる宮凪くんの横顔が、どこか寂しそう。


「昔、ここで死にかけたことがあるんだ」

 静かな空の下。落とされた打ち上げ花火は、音も立てずに弾け飛ぶ。

「え?」
「だからなんだって話なんだけど。ここ来ると、身が引き締まるっていうか。原点に戻れる気がするんだよなぁ〜」

 溺れかけた。宮凪くんは昔話だと笑っていたけど、どんな反応が正確なのかわからなかった。
 それに、怖い経験をした場所を、『思い出の場所』でもあると話してくれた。一緒にいるから、私に気を遣ってくれたのかもしれない。

「で、蛍はなんで家出したの? 親と喧嘩?」

 図星をつかれて、ゆっくりとうなずく。
 小さなことかもしれないけど、私にとっては重要だ。

「母親なんてさ、いちいちうるさくて、ウゼェだけだよな。いてもいなくても、どっちでもいいっていうか」
「そ、そこまでは……!」

 身を乗り出して、思わず否定する。
 お母さんに不満はあるけど、嫌いなわけじゃない。

「嘘ウソ。蛍は、ちゃんと話した方がいいよ。こんな夜遅くに、家飛び出したりしねぇでさ」
「……うん」

 膝に顔を埋めて、小さく息を吐く。
 顔を真っ赤にして怒るお母さんが想像できる。理由より結果が先で、私の気持ちなんてどうでもいいの。


「……ほたるー! どこにいるのー? ほたるー!」


 石橋の方から、誰かが叫んでいる声が聞こえてきた。橋の下から見上げると、必死に走り回っている姿が見える。

「お母……さん?」

 こんな時間に、探しに来てくれたんだ。でも、どうしよう。口を開くけど、声が出ない。