気づいたら、あの公園へ来ていた。海賊船の中へ潜り込んで膝を抱く。
 ヒックヒックと肩で息をしながら、小さな声を上げる。感情をさらけ出して泣くのは、何年ぶりだろう。声をからかわれて、陰口を言われたあの時以来かもしれない。

 ころんと横たわり、ぼんやりと浮かぶ月を眺める。このまま、あの月みたく消えてしまえたら、どんなに楽だろう。


「──ホタル?」

 いきなり目の前が暗くなったと思ったら、誰かの顔が覗きこんでいる。驚くと同じくらいに、月明かりに照らされ現れたのは宮凪くんだった。

「わっ!」

 余計に心臓が跳ね上がって、後頭部を軽く打つ。

「いったぁ……い」
「大丈夫か? てか、こんな時間に何してんの?」

 頭を押さえる私の前で、宮凪くんがしゃがみ込む。貼ろうとしていたのか、手にはルーズリーフの切れ端が持たれていた。
 宮凪くんだ……。ほんとに、宮凪くんがいる。
 何日も会えていなかったから、今は嬉しさの方が強い。それと同じくらい不安も押し寄せる。『話さなければいけないこと』が、予想外に訪れた気がして。

「落ち着いた? なにがあった? 言いたくないなら、言わなくていいけど」

 二人で肩を並べて、しばらくして宮凪くんが口を開いた。海賊船の天井に、『わかった』というメッセージを貼っている。
 こんな時間に、宮凪くんこそ何をしているのだろう。いつも、夜遅くにここへ来ていたのかな。
 路地裏で会っていた人たちは誰? 悪い人たちと、女の子と仲良くしているの?

 聞きたいことはたくさんあるけど、私は質問に答える。

「いろいろあって、家、飛び出して来ちゃった。今日は、帰らないつもりで」
「ああ……、家出ね」

 なるほどと言いたげに、宮凪くんはうなずいた。

「まあ、そうゆう日もあるよな。俺なんてしょっちゅうだよ」

 ハハッと笑う横顔が、ほんのり寂しそうに映る。


「協力しようか? 俺ん家、今誰もいないから来る?」