少し遅れて、真木さんが隣に立った。跳ねた髪を手ぐしでとかしながら、少しためらった口調で段に腰を下ろす。

「……大丈夫?」

 反応しない私をのぞき込んで、ああ……とばつの悪そうな表情をした。涙まみれのひどい顔だったからだろう。

「ごめんね。おせっかいかと思ったけど、納得いかなくて。ああゆう人たちと、春原さんの接点ってなんだろって」

 思えば、始まりは手紙だった。宮凪くんが『友達になりませんか?』とメッセージを残したから、私たちは出逢った。
 友達がいないのは結局私だけで、くれた言葉もデートも、全てが嘘だったの?

「……宮凪くんとは、少し前に知り合って。でも、他の人は、あんな宮凪くんは知らない」

 何度頬を拭っても、悲しみはあふれて止まらない。

「最近、よくあそこで溜まってるよ。わたしも噂でしか知らないから、余計な口出しできないけど」

 ゆっくり立ち上がり、真木さんが手を差し伸べる。

「春原さんが心配なの。誰だってマイナスなことは隠したいじゃん?」
「まだ、信じたくない……です」
「目に見えるものだけが、すべてではないけど。春原さん次第じゃない? あの人を信じられるのか。それとも、この際に見切りつけて離れるのか」


 ──女遊びも激しいんだってね。

 ──何言われたか知らないけど、騙されてるよ。


 おずおずと手を取って、ふらつきながら立ち上がる。支えてくれる真木さんの腕を、そっと離した。

「……うん」

 あの時は、そんなことないと強く言い切れた。でも、今は自信がない。
 濡れた頬に残る余韻は、甘く柔らかな感触ではなく、擦れる指のひりつく痛みだけ。