学校が終わって、公園へ向かう足取りが重くなる。一昨日の今日で、顔を合わせづらいと思っていたところに、あんな噂を聞いてしまったから。
 遊具から降りて、遊んでいた小学生たちが帰っていく。海賊船の中へ潜り込むと、新しいメッセージが貼られていた。

『しばらく来れない。ごめん』

 そっけない文字に、胸が締め付けられる。
 今までにも、会えない時はこうして手紙を置いていた。なにも特別なことじゃない。

 私たちは、お互いの連絡先を知らない。
 交換しようと言われたことはなく、こっちからは聞きづらくて、気づけば何日も経っていた。
 ここへ来たら、会える。そんな暗黙の了解が、私たちの間にはあったから。

 見慣れた字をなぞりながら、目頭が熱くなる。

「ねぇ、どうしてこのタイミングなの? 宮凪くん──」

 会いたい。顔を見て話したら、安心出来る気がした。私にくれた言葉も優しさも、キスも全部、本物なんだって。
 茜色の空が街を覆い始めて、遠くでカラスの鳴き声がする。手紙をそっと鞄へしまって、海賊船を出た。
 信じているのに、心の波は大きくなっていく。

 家へ着くと、母が困ったような顔をしてため息を吐いた。寄り道をして来なかったかの質問に、控えめにうなずく。
 ここのところ帰りが遅かったことを心配して、一ヵ月の外出禁止令を出された。
 土曜日に二十時を過ぎたことが決定打になったようで、それは私も反省している。

『蛍は危機管理が疎すぎるの。女の子がこんな時間までどこへ行ってたの? ほんとにお友達なの?』

 宮凪くんの名前は、出さなかった。男の子と一緒だったと知ったら、父が発狂しかねない。
 今日は、少し会ったら帰宅するつもりだった。これからはあまり長くいられないけど、また会いたいと伝えるためにも。
 その浅はかな気持ちが、神様の逆鱗に触れたのかもしれない。

 部屋の窓から、満月が顔を出していた。欠けてゆく月がまた丸を描いたら、宮凪くんに会える。