春風が 桃色の空気を運んでくる
 冬に忘れ物だよと 笑いかけながら
 わたしは一人 その空を見上げてつぶやく

 ひとりぼっちにならなくて よかったねって
 きっと誰かが 見つけてくれる
 もう大丈夫だよ 泣かないでって

 そう いつかわたしも
 君へ あたたかい手のひらを伸ばしたい


『いい詩だね。よかったら、友達になりませんか?』

『ホタルと言います。私でよかったら、友達になりましょう』

『返事ありがとう。ウミって呼んでね。ホタルは、この公園よく来るの?』

『学校行く前に、毎日寄り道してます。海賊船は、私の秘密基地なの。ウミちゃんは?』

『この前、初めて来たよ。ここ、いいね。全ての音が遮断される』

『そうなの。1人になりたい時に、とってもいい場所です』

『わかる。たまにあるよね。全部リセットしたくなる瞬間。テストで赤点取った時とか、笑』

『ウミちゃん、もしかして学生ですか? 私は、15才の高校1年生です』

 海賊戦の遊具に潜り込んだら、慣れた手つきで、天井に貼り付けられた封筒へ手紙を入れる。
 登校前に公園で寄り道をするのが日課の私は、一週間前にメッセージを見つけた。詩を書くことが好きで、毎朝メモ書きしたものを貼っていた紙に、一言付け加えられていた。

 初めは、詩を読まれた恥ずかしさが込み上げたけれど、【友達になりませんか】という文字に惹きつけられ、気づいたら返事を書いていた。

 気まぐれと言ったら、そうなのかもしれない。小学生の単なるいたずらだと、半分は本気にしていなかった。新しいメッセージが貼り付けられるまでは。

 何度か手紙の交換をするようになって、朝が楽しみになった。お互い顔も本名も知らない。だけど、歳は同じで話しやすい。
 字がきれいだから、私の中では勝手にお姉さんのようなイメージを持っている。

『そういえば、ホタルはどこ高なの?』

 返ってきた質問に、ペンを持つ手が止まった。
 言わないといけないかな。あまり知られたくない。
ナイショと書きながら、どこか不安になる。この返答は、気分を害すかもしれないって。

 紙一枚で繋がった友情なんて、いつ壊れてもおかしくない。

 相手に不信感を抱かれたら終わり。お互いに顔も名前も知られたくないから、間接的に話しているのに。
 それでも、会ってみたい気持ちが強くなってきた。それは、最近の彼女からも感じられる。