雨の日が続いて、一週間ぶりに公園へ向かった。この前借りたランニングシューズを入れた紙袋を手にして、海賊船の前に立つ。
 悩んだけど、ネットで調べた方法で洗って陰干しした。素足で履いてしまったし、気付かない匂いがしていたら嫌だから。

 少しして、フードを被った宮凪くんがやって来た。今日は学ランを着ているから、ちゃんと学校へ行っていたみたい。

「元気だった? って言っても、たかが一週間か」

 ハハッと軽く笑う宮凪くんとは対称的に、私は神妙な面持ち。

「すごく長く感じた」

 言ったあとで、ハッとなる。これでは、待ち焦がれていたと告白しているようなもの。
「靴を返せなかったから」と慌てて付け加えると、宮凪くんは目を三日月にしてはいはいと笑った。
 近寄りがたい見た目からは、想像のつかない可愛らしさ。キュッと胸が締め付けられるのは、それだけが理由じゃない。

 青い光の正体を、知ってしまったから。


 あの後、なんとなくスマホで検索してみたけど、それらしい情報は出てこなかった。ただ、人間は普段から光を発しているらしい。
 細胞が活発になるとより強くなり、それは機械を使わなけば目には見えない。

 もっとも光を放つのは、細胞の病気にかかっている時。だけど、海ホタルのように青く光る現象は出てこなかった。

 もし、宮凪くんの特殊能力が珍しい病気だったら──。



「……蛍、聞いてた?」

 狭い海賊船の中で隣り合わせに座っていたところ、呼ばれて意識が戻る。
 振り向くのとほぼ同じくらいに、頬がふにゃっとつままれた。想像以上に変な声が出て、恥ずかしさのあまり顔を伏せる。

 絶対に気持ち悪いって思われた。もう一生上げられないよ。

「ごめん、そんなびっくりした? ボケっとしてっから、これなら気付くかと思って」

 なんでもないような声色が降ってくる。変な反応をしたことも、自分自身の体のことも全部気にしていないみたいな感じで、その明るさに救われた。

 学校での宮凪くんは、どんな人なんだろう。友達が多くて、きっとクラスの人気者に違いない。もしも私が同じ学校だったら、こうした手紙の出会いじゃなくても、仲良くしてくれたのかな。
 手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに、不安はいつも隣にいて離れてくれない。

「で、さっきの話。今週の土曜、一日借りれない?」
「……なに、を?」

 おもむろに上げた首を傾げた。
 薄暗い景色の中、きらりとピアスが光って、形のいい唇が小さく動く。


「──蛍の時間」