「……えっ? それ、どうなってるの?」
「海ホタルとは違うけど、すごいだろ? これ、俺の特殊能力」

 得意げに言う宮凪くんは、続けて説明する。水に触れると蛍のように発光する。この体質は幼い頃からで、痛くも痒くもないらしい。
 昔見た海ホタルに、よく似ている。あの時の感情が蘇るようで、懐かしさが込み上げた。

「……きれい」
「触ってみる?」

 一度引っ込めた手を伸ばして、そっと手のひらを合わせる。クリスマスのネオンみたいにほんのり暖かくて、ドキドキした。

「したいことも欲しいものも、その時叶えておかないと、あとで後悔するかもしれないだろ」

 指の隙間に宮凪くんの指が入り込んで、ぐっと手が握られる。触れたとこから、青い光がこぼれ出す。
 鼓動がおかしくなるのは、きっと海ホタルを見れたから。感激で胸が熱くなっているから。そう言い聞かせなければ、気丈に立っていられる気がしない。

「そろそろ帰るか。足元、転びやすいから気を付けて」

 ごわつく石でバランスを崩しそうになりながら、しっかり繋がれた手に支えられて河原へ上がった。
 ぐっしょりと濡れた靴や靴下を見て、頭が落ちる。もう少し考えて行動すればよかった。中敷きから水を出しても、靴がカパカパして気持ちが悪い。
 勘違いした自分が情けなくて、数分前の感情が哀れになる。感触の残る手のひらを閉じると、

「これ履きなよ。まだ使ってないから、汚くねぇよ」

 リュックから取り出されたのは、黒と白のランニングシューズ。
 朝と夕に走ろうとして、つい先日に購入したらしい。新品を借りられないと拒否したところで、宮凪くんが受け入れないのは目に見えている。

「……ごめんね、ありがとう」

 夏の近付く風のおかげで、素足はすぐに乾いていた。
 宮凪くんのランニングシューズは大きくて、少しぶかつくけど履き心地がいい。小さくしか進めない私の歩幅に合わせて、宮凪くんが家の近付くまで送ってくれた。

 迷惑をかけてばかりだったから、今度は私が叶えたい。宮凪くんがやりたいこと。