休日、久方ぶりにお母さんと出かけることになった。中学では買い物へついて行くこともほとんどなくなって、何年かぶりにショッピングをしている。
 洋服を見ても、最近のファッションがわからず狼狽えて、定員さんに話しかけられると、余計に萎縮してしまう。やっぱり慣れない。

「蛍、こんなのはどう? 少し色が地味かな」
「ううん、それにする」

 結局、今回もお母さんが選んだものを購入した。嫌いな系統じゃないし、自分では決断しきれない。

 セレクトショップを出て、CDが並ぶ店舗の前を横切る。音楽が流れていて、ふと足を止めた。なんとなく、目の前にあった視聴できるヘッドホンを耳に当ててみる。
 メメント・モリ。これが宮凪くんの言っていた曲。

「あら、蛍が音楽聴くなんて珍しい。なんの歌?」

 後ろから、お母さんがひょこっと顔を出す。ビクリと肩を跳ねさせて、慌ててヘッドホンを戻した。

「なんとなく。流行りの曲でも聴いてみようかなって」

 私、どうしちゃったんだろう。無意識に手を伸ばしていた。
 ほんのり染めた頬を冷ましながら、ファストフード店へ入る。お昼ご飯に、バジルチーズバーガーとポテトを頼み、席へ着いた。

「わぁ、おいし〜! クリームシチューバーガー、すっごく食べたかったんだよね」
「海老入ってるじゃん。しかもすっごいデカい」
「断面も撮っておこうよ」

 すぐ前の席から、パシャパシャと写真を撮る音が聞こえてくる。その聞き覚えのある声に、冷や汗が流れてきた。
 たぶん、同じクラスの子だ。真木さんと仲良くしているけど、私としては少し話しかけづらいオーラを持っている人。

「お母さん、席、変わらない?」
「急にどうしたの? せっかく座れたのに」
「……ううん、やっぱりいい」

 なるべく見えないように顔を伏せて、声をひそめる。親と一緒にいるときに、出くわしたくない。
 トイレへ行くと言って、私は席を立った。何もしないで、ただ座って時間を潰す。あの子たちが帰るまで、出られない。

 ──ねえ、見た? 春原さん、親と食べに来てたね。友達いないのかな。

 勝手な想像をして、落ち込んでる。彼女たちは、そんなこと言わないかもしれない。
 でも、個室に留まる足が動かなかった。

 トイレから出たときには、クラスメイトの姿はなく、私はホッと胸を撫で下ろして席へ戻った。

「大丈夫? 体調悪いの?」
「ちょっとだけ。でも、もう平気」
「ならいいけど……」
「お腹空いちゃった。急いで食べるね」

 冷め切ったポテトとバーガーを交互に頬張り、口の中がいっぱいになる。心配そうな視線に気づかないふりをして、私は味のわからない食べ物を噛み続けた。