春見(はるみ)、好きだ」

 それは、唐突だった。
 なんの前触れもなく、私は告白された。
 しかも、相手は私の好きな人。去年、高校一年生の秋ごろからずっと片想いをしていたクラスメイトだ。
 驚きもさることながら、心が躍る。踊らないはずがない。
 放課後。
 人気の少ない、夕暮れ時の公園。
 ベンチに置かれた高校の指定鞄は二つ。
 ブランコに座る私と、鉄棒に体重を預ける彼。
 シチュエーションは完璧で、夕陽に照らされた彼の横顔は赤く、とても愛おしい。
 私の顔も熱い。頬のあたりがまず間違いなく火照っている。触らずともわかる。
 ブランコの鎖を握る手には汗がにじみ、胸のあたりからは高速の心音が響いている。破裂しないか心配になるほどだ。
 制服姿で向かい合う私たちは、まさに、恋人同士になる寸前だった。

「ごめんなさい」

 ただの一点。
 私と彼の小指を繋ぐ青い糸だけが、私の気持ちを歪めていた。

 不幸の青い糸、と私は呼んでいる。
 それは毛糸ほどの太さで、特定の二人の左手の小指と小指を繋いでいる。その二人が互いの近くにいると青い糸は現れ、私以外には見えず、触れることもできない。
 そして、青い糸に繋がれていることは、二人が結ばれると不幸になることを意味する。
 結ばれると幸せになるという運命の赤い糸とはまったくの逆。不幸せになることを示す、不幸の青い糸。
 それが今、私と私の好きな人を繋いでいる糸の正体だ。

 どうして、と思う。
 どうして私と彼が、繋がれているのだろう。
 まったく関係のない、赤の他人とかだったら良かったのに。

「そう、か……」

 落胆した彼の表情に、胸がズキリと痛む。
 ごめん。ごめんなさい。
 心の中で何度も謝る。本当は私も好きなのだと、大きな声で叫びたい。
 でも、できない。そんなことをすれば、私たちは恋人関係になって、それから不幸に見舞われてしまう。
 私だけならまだいい。けれど、好きな人が不幸になるなんて、そんなのは嫌だ。絶対に嫌だ。
 だから私は、必死に歯を食いしばって口を閉じていた。フォローする余裕もなく、冷たく顔を背けた。もし逆の立場だったら、今ごろ私は泣いていただろう。
 けれど、彼は強い。悲しそうに、悔しそうに俯いていたかと思えば、すぐに面を上げて私を見据えた。

「でも俺、諦めないから」

 意思のこもった、私には十年かかってもできない眼差しだった。私が惚れた、優しくて柔らかな眼差しとはまるで違う。そんなギャップも、とても素敵だと思った。

 ……本当にどうして、高坂(こうさか)くんなんだろう。

 フッた側のくせに泣きそうになるのを必死で堪えながら、私は視界の端に映る青い糸を睨みつけた。