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秋も深まって街はクリスマスの飾りに浮かれ始めた頃、城之内さんが学校を一週間休んだ。
彼女はスマホを持っていなくて、最初の数日、僕は図書館で待ちぼうけを食う日々を過ごしていた。
二、三日くらいなら風邪かと思うけど、一週間丸々となると心配だ。
だけど、彼女は別のクラスだから、欠席の原因なんて分かるわけがなかった。
僕にできることは小説を書くことだった。
書かなくちゃ。
少しでもいい。
早く小説を書かなくちゃ。
書けないなんて弱音を吐いている場合じゃない。
今度会った時に読んでもらえるように、喜んでもらうために。
僕は彼女に出会った時からの出来事をそのまま文字に置き換えて物語をつづっていった。
残念ながら、その小説は自分でも面白いとは思えなかった。
文章はつたないし、小学生の頃嫌いだった遠足の作文から全然進歩していなかった。
だけど、なりふり構っている場合ではなかった。
週明け月曜日、帰りのホームルームが終わったときに、担任の先生が女子生徒を呼び止めた。
「おーい、佐々木」
「はい、何ですか」
「佐々木は三組の城之内と同じ中学出身なんだろ。家は近いのか?」
「はい、歩いて三分くらいのところですよ。私、行ったことあります」
「ああ、そうなのか」と、ノートが入る大きさの茶封筒を差し出す。「じゃあ、申し訳ないんだが、この書類を家に届けてやってくれないか。このまま家の人に渡してもらえればいいから」
「いいですよ。今日の帰りに寄ってきます」
「よろしくな」と、先生が教室を出ていく。
僕は迷わず立ち上がっていた。
まだ出会いの場面しか書いてないけど、交換日記なんだから臆することはないんだ。
「佐々木さん」
「ん、何?」
「これ、城之内さんから借りてた国語のノートなんだ。悪いけど、一緒に持っていってくれるかな」
「うん、いいよ。茉里乃ちゃん、早く退院できるといいね」
――え?
退院?
「入院……してるの?」
「あれ、知らなかった?」と、佐々木さんが首をかしげる。「中学の時からよく入院してたんだよ」
「あ、そうなんだ」
「じゃあ、渡しておくね」
「うん、ありがとう」と、僕は動揺を悟られないように声を張ってお礼を言った。
それから僕はすぐに図書館へ向かった。
自分のノートに小説を書くために。
ハッピーエンドを彼女に届けるために。
僕は必死に文字を書き連ねていった。
そして、期末試験が終わり、もうすぐ冬休みに入る頃、彼女からの返事が来た。
僕の下駄箱にラブレターが入っていたのだ。