三時間近くショップを見て回り、悩み尽くした結果、萌が選んだのは自分好みの服だった。
勇気を出して胸元の開いたニットを買おうか、とも真剣に考えた。
しかし、想像してみたのだ。付き合って間もない彼女が、いつもと違う系統の服を身につけ、しかもそれがセクシーな服だったら。身体の関係を誘っている、と思われて、引かれてしまうかもしれない。
駿介がどんなタイプの服が好きかは分からないし、本当は喜ぶ可能性だってある。それでも萌は、引かれたら嫌だから、というのを言い訳にして、流行ではなく自分の好みを信じることにした。
肌触りのいいベージュのゆったりしたニットに黒のフレアスカート。試着してみたら、スカートはちょっと丈が短かったが、かわいかったので思い切って購入した。
家に帰ったら、持っているバッグやコートも見返して、トータルコーディネートを決めておこう。
あと欲しいものは、と考えて、萌は大事なことに気がつく。ただのデートではない。クリスマスにデートなのだ。
せっかくならプレゼントを渡したい。
そう思い立ち、家に帰るため駅の方へ向かっていた足を、ショップ方面に引き返す。
先ほどショッピングをしたときは入らなかった雑貨のお店や、男性向けのショップにも足を踏み入れてみた。
店員も手慣れたもので、彼氏さんへのプレゼントですか? とおすすめの商品を教えてくれる。
勧められるものは、財布、腕時計、キーケースやアクセサリーもあった。あまり高価なものだときっと駿介に気を遣わせてしまうので、そこそこの価格帯でデザインのいいものを探す。
ふいに視線を上げると、萌でも知っている有名な男性向けブランドのお店が飛び込んできた。服などは高価で手が出ないと思うが、小物はどうなのだろう。
場違いかもしれないと思いながらもおそるおそる足を踏み入れて、萌はすぐに足を止める。
あ、あの人、知ってる。
売り場でキャラメル色とネイビーのマフラーを見比べている、大人びた少女。肩が見えるくらい露出したトップスに、真っ赤なミニスカート。すらりとした足はショートブーツによって底上げされていて、より長く見えた。
確か駿介と同じクラスの、篠原麻衣、だったか。
つり目がちの美人で、元々強いであろう目力を、メイクの力でさらに盛っている。髪色が明るく、制服は着崩し、メイクもばっちり、という派手なタイプだ。
話したことはないが、見た目の印象からなんとなく萌は苦手意識を持ってしまっている。
それでも彼女が目を引く人だというのは確かだった。華がある、とでもいうのだろうか。苦手だと思っているのに、つい見てしまう。そんな華やかさを持っている人だ。
篠原さんも彼氏へのクリスマスプレゼントかな。ああいう人はどんなものを選ぶんだろう。
それはちょっとした好奇心だった。
きっと萌よりも男性経験は圧倒的に多いであろう彼女が、恋人にどんなプレゼントを渡すのか。
帽子の並ぶ棚の前で、どれも駿介に似合いそうだな、と考えながら悩んでいると、視界の端で麻衣が動いた。
その手には、キャラメル色に黒のラインが入ったマフラー。想像通り彼女はそれをラッピングしてもらい、店をあとにした。
麻衣がいなくなったのを確認してから、萌もマフラーの並んでいるコーナーへ移動する。どれもおしゃれなデザインばかりだったが、麻衣の購入したものが一番上品でかっこいい気がした。
でもさすがに同じものを買うのは抵抗がある。麻衣が渡す相手も、同じ高校の同じクラスの人かもしれない。萌の方が後から買うのに、駿介とおそろいになってしまったら申し訳なさすぎる。
駿介がマフラーを身につけているのを想像しながら、彼に一番似合いそうなマフラーを選んだ。ブラウンを基調にしたものだが端のほうは明るいグレーになっていて、コントラストに遊び心があってかわいい。駿介は顔立ちがはっきりしているので、シンプルなデザインの方が彼の良さを引き出してくれる気がした。
ラッピング包装をしてもらうと、それだけで駿介に渡すのが楽しみになってくる。わくわくする気持ちを抑えながら、萌は軽い足取りで帰路に着くのだった。