萌は冬があまり好きではない。寒いのは苦手で、冬を先取りして指先が冷たくなるたびに、冬なんて早く終わればいいのにと思ってしまう。
 でも今年はほんの少しだけ、わくわくしていた。クリスマスイヴに行われる、吹奏楽部でのクリスマス会。それから、その後に駿介と約束している、初めてのデート。

 おしゃれをしていくって約束したから、かわいいって思ってもらえるように頑張らないと。
 
 そんなことを考える日曜日の昼下がり。
 いつもなら部活動に励んでいるこの時間だが、今日は顧問の先生が休みだった。コンクールや演奏会の前ならば、他の先生に頼んで部活動の許可をもらうのだが、今はオフシーズンなので休日になったわけだ。

「かわいいデート服ってなんだろう……」

 カフェでホットココアを飲みながら、萌は一人呟く。
 クリスマス用のデート服を選ぶため、近くで一番栄えている駅まで移動し、駅ビルに入った。そこまではいい。しかしビル内に立ち並ぶ店はどこもきらきらしていて、萌はすっかり気後れしてしまった。
 友人と一緒だったなら気にならなかったかもしれないが、あいにく今日は一人だ。
 理由は簡単。彼氏がいることを誰にも話していないのに、デート服を選びに行きたい、なんて言えるはずもないからだ。

 萌はため息を隠すようにココアを一口飲む。視線の先には、先ほど心を折られたばかりの憎たらしいくらい華やかなショップが並んでいる。
 どこの店もクリスマスに向けて気合いが入っているのが伝わってくる。もちろん店によって扱っている商品の傾向は違うが、今年はどうやら胸元がちょっと見えるようなデザインが流行っているらしい。どこのショップを覗いても、似たようなデザインのものが置いてあるので、萌は頭を抱えたくなった。

 ああいうセクシーな服を着たら、矢吹くんも喜んでくれるのかな。

 そんなことを考えてみるが、すぐに脳内会議で否決される。どう考えても萌には無理だ。恥ずかしすぎる。
 ただでさえ、身体のラインが分かるものや、露出の多い服は苦手なのだ。
 これはたぶん、子どもの頃の出来事が原因なのだろう。成長が早かった萌は、胸が大きい、と男の子にからかわれたことがある。そのときは恥ずかしくて怒ることもできなかった。幼馴染の男の子が萌の代わりに怒ってくれたことも同時に思い出し、少しだけ微笑ましくなる。

 隣の家の男の子、速水陸。陸は今、家を出て寮住まいをしている。野球に専念するため、甲子園で優勝するため、そして、一番のピッチャーになるため。夢のために努力する陸は、いつも萌に勇気をくれる。
 告白をしてくれて、断ることを選んだ萌に、謝らなくていいよと言ってくれた優しい人だ。

 今日も陸ちゃんは、きっと練習を頑張ってる。

 そう思ったら、少しだけ元気が回復した気がした。
 陸の気持ちに応えられなかった分も、萌はちゃんと、幸せにならなければいけない。
 ホットココアを飲み干して、お会計を済ませる。向かう先は、再び戦場だ。