落ち込む駿介の背中を押して、パスタの美味しいお店に入る。年末だからか店は空いていて、すぐに席に案内してもらえた。四人がけの広い席に座り、コートとマフラーを丁寧に畳んで椅子に置く。
 その間もじっと駿介がマフラーを眺めているものだから、萌は堪え切れなくなって笑い出してしまった。

「そんなに落ち込まなくてもいいのに」
「いや落ち込むだろ!? 自分がバカすぎて凹む…………」

 メニューを広げながら駿介は項垂れる。
 それでもいつまでも落ち込んでいてはいけないと思ったのか、自身の頰をぱちんと両手で叩いて、気合いを入れ直した。

「えーっと、雨宮はパスタ何にする? クリーム系をよく食べてるイメージがあるけど」
「うーん。カルボナーラかなぁ。あとサラダも食べたいけど…………あ、サラダとドリンクのセットがあるからこれにしようかな」
「俺はきのこと山菜のしょうゆバターにする」

 二人でメニューをさくさくと決めて、注文を済ませる。
 駿介は頑張って明るく振る舞おうとしているようだった。

 すごく反省しているし、後悔もしているみたい。元々矢吹くんに似合うと思って買ったものだし、もらってくれるならあげたいけど……。

 そんな風に考えて、萌はおずおずと訊ねてみた。

「矢吹くんは…………このマフラー、欲しい?」

 萌がそんなことを言うとは思わなかったのだろう。目を丸くした駿介だが、間髪を入れずに答えを口にした。

「欲しい。雨宮が俺のことを考えて選んでくれたんだろ? 正直すっごく欲しい」
「……ラッピングはがしちゃったんだけど」
「うん」
「しかも私、一回身につけちゃった」
「うん」
「それでももらってくれるの?」

 首を傾げて訊ねた萌に、駿介が迷いなく頷く。萌は嬉しくなって頰を緩めた。
 それからマフラーを手に取って、テーブルの上から駿介に差し出す。

「じゃあ、このまま失礼します」
「うわ…………やばい、嬉しすぎて泣きそう」
「大げさだなぁ」

 萌はころころと笑いながらも、嬉しくて堪らなかった。
 店員が届けてくれたアイスティーに、ガムシロップを混ぜる。店内はあたたかいが、身体が冷えては困るので、氷は抜いてもらった。氷の抵抗がないからか、ストローで混ぜると紅茶はくるくるとよく回った。
 駿介は届いたコーヒーには手をつけず、バッグの中を漁っている。何か探し物かな、と思って眺めていると、淡いピンク色の袋が出てくる。袋を飾るリボンは白で、ずいぶんとかわいらしいラッピングだった。

「俺からもこれ。遅れちゃったけど、クリスマスプレゼント」

 手渡しされたそれは、ふわふわとしていて軽い。ありがとう、と萌が笑うと、駿介は言いづらそうに言葉を紡いだ。

「雨宮の好みか分かんないけど、雨宮に似合いそうだなと思って選んだんだ」
「うれしい。開けてもいい?」
「うん。というか、開けて確認してほしいかな」

 好みじゃなかったら新しいプレゼントをこの後買いに行くから、という言葉に萌は驚いてしまう。
 萌に似合うと思ったものを選んでくれた、それだけで十分嬉しいに決まっているのに。
 ドキドキしながらリボンを解く。そして袋の中身を取り出して、萌は思わず喜びの声を上げた。

「マフラーだ! すごい、同じものを選んでたんだね!」

 やわらかく触り心地のいいそれは、綺麗な赤色をしている。ふわふわとした手触りが気に入って、ぎゅう、と胸に抱き締める。

「絶対大事にする。ありがとう、矢吹くん」
「…………もう一個入ってるよ、そんなに大したものじゃないけど」
「え? 二つも用意してくれたの?」

 袋が軽くて気が付かなかった。中を覗いてみると、そこにはえんじ色のリボンが入っている。取り出してみれば、リボンの形をした髪飾りだった。

「わぁ……かわいい!」

 どちらも色合いは少し違うけれど、赤いものを選んでくれた。きっと駿介から見た萌は、赤が似合うのだろう。
 綺麗な色を選んでもらえたこと、そして何より駿介が萌のために真剣に選ぶ姿が想像出来て、萌は嬉しくて堪らなくなった。
 元々つけていた髪飾りを外してバッグにしまい、もらったばかりのリボンをつけようとする。
 ハーフアップで後ろに髪をまとめてしまっているので、リボンをつけるのももちろん後ろ手になる。不器用な萌が苦戦していると、駿介が笑みをこぼして立ち上がり、萌の隣の狭いスペースに座った。

「後ろ、向いて」
「う、うん」

 リボンを渡すとき、一瞬だけ手が触れた。その後駿介が優しい手つきで萌の髪に触れ、髪飾りをつけてくれる。

「できた」
「ありがとう…………」
「うん。やっぱりかわいい」

 顔から火が出そうなほど、頰が熱くなった。
 駿介はすぐに向かいの席に戻ってしまったが、萌の心臓はうるさいくらいに鳴っていた。
 近くにいるのはいつものことなのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。
 熱くなった頰を押さえながら、萌は誤魔化すようにアイスティーに手を伸ばした。