どこかでお昼ご飯を食べようと駿介が言って、二人は歩き出す。ちら、と横目で駿介を盗み見ると、同時に駿介も萌の方を見ていて、慌てて目を逸らす。
なんだかやけに恥ずかしくてドキドキするのは、駿介の雰囲気がいつもと違うからだろうか。
「…………雨宮さぁ、そのマフラー」
駿介がふいに口を開いたので、萌は隣を見上げて足を止める。駿介も立ち止まり、なぜか目を泳がせる。
「ん? マフラーがどうしたの?」
「それ、メンズでしょ。誰にもらったの」
萌は数秒首を傾げて考えて、それから少しだけ笑った。
どうやらメンズのマフラーを、誰か男の子からプレゼントされたんじゃないか、と勘ぐっているらしい。
私の彼氏くんは、私と同じくらいヤキモチやきかもしれないな。
心の中でそう呟いて、嬉しくなる。
好きな気持ちが強いのは、萌だけではない。不安になるのも、嫉妬をするのも、相手のことを大好きだからなのだ。
「んー。誰だと思う?」
ちょっとだけ意地悪な気持ちが顔を出して、萌は上目遣いに質問してみる。駿介は口をとがらせて、「速水はちゃんと雨宮に似合うかわいいの贈りそうだし、健也?」と答えた。
「五十嵐くんも相手に合わせて贈り物しそうだけどなぁ」
「いやあいつなら独占欲出してメンズとか選びそう……。しかもおしゃれだし。やっぱり健也?」
おそるおそるといった表情で駿介が訊ねてくるので、萌はくすりと笑った。あまり意地悪をしては可哀想だ。
種明かしのために、違うよ、と答えると、食い気味に「じゃあ速水?」と返ってくる。
どうしても男からのプレゼントだと信じて疑わないらしい彼に、私だよ、と教えてあげる。
その言葉の意味が分からなかったらしく、駿介は首を傾げた。
「私が自分で買ったの。だから、陸ちゃんとか五十嵐くんからのプレゼントじゃないよ。意地悪な質問してごめんね」
「え、意外。雨宮、メンズものなんて買うことあるんだ。………………ま、待って雨宮、ちょっと待って!」
唐突に慌てた声を上げた駿介は、萌の肩を両手で掴む。力の加減を間違えたようで、少し痛いくらいだった。
でも駿介の表情が必死だったので、萌は心配になって「どうしたの?」と訊ねる。
間違ってたら聞き流して欲しいんだけど、と前置きをして、駿介が萌の顔を覗き込む。
「……もしかしてそれ、俺宛て、だったりした…………?」
期待と、少しの後悔、それからあとはなんだろう。
駿介の表情から読み取れる感情を考えてみるけれど、全ては分からない。
そうだよ、と答えたら、駿介は傷つくだろうか。麻衣にもらったマフラーを身につけていたことを思い出して、後悔してしまうような気がした。
違うよ、と言えば安心はするかもしれない。でもがっかりさせてしまうかも。
萌が答えに悩んでいると、本当のことを言っていいから、と駿介は言葉を付け足した。
本人がそう言うならば、言ってもいいだろう。
そう判断して、萌は黙ったまま頷いた。その瞬間にさっきまで掴まれていた肩に、駿介の頭がことんと落ちてきた。
相当ショックだったらしい。本当にごめん、雨宮、と呟く彼がなんだかかわいく思えて、萌は駿介の背中をぽんぽんと優しく叩いてあげた。