年末、十二月三十一日を迎えた。
クリスマスイヴの日と同じ服、同じ髪型で、萌は準備を整えた。一つだけ違うのは、首元を飾るブラウンのマフラーだ。端の方は明るいグレーなので、遊び心もあってかわいい。
本当は駿介に渡す予定だったプレゼント。萌はクリスマスの夜、駿介と仲直りした後にそれを開封した。
本音で話し合った後なのだ。これ以上話を蒸し返すつもりはない。駿介は麻衣が渡したであろうマフラーを使っているはずだ。
それでもいいと萌は思った。駿介の気持ちが、まっすぐ萌に向いていることが分かったから。心配することなんて何もない。
せっかく買ったマフラーは、そのまま捨てるのも可哀想なので、思い切って自分で使ってしまうことにした。
メンズものだが、なかなか使い勝手はよさそうだ。
スマートフォンが着信を知らせる。駿介が迎えに来てくれたのだ。
今日は夕方からプロのオーケストラのコンサートを観に行く予定だった。
予定を変更して昼間から会えないかな、と言ってくれたのは駿介だ。この間デート出来なかった分ちょっとでも一緒にいたい、という言葉に、萌は喜んで頷いた。
コンサートのチケットは、吹奏楽部のクリスマス会でもらったもの。駿介と萌がコンサートに行くことは、部員のみんなに知られているので、今日ばかりは人目を気にする必要もない。
さすがに人前で手を繋ぐことは出来ないが、休日に駿介の隣にいていい理由があるのだ。そのことがより萌の心を弾ませていた。
「お待たせ、矢吹くん!」
家の門を出て、待ってくれていた駿介に声をかける。駿介は振り向いて、そのまま固まった。
「あ、あれ? どうしたの?」
おーい、と駿介の目の前で手をひらひらさせる。駿介はずるずると座り込んで、かわいすぎじゃない? と呟いた。
そう言ってもらえればおしゃれを頑張ったかいがあるというものだ。
熱い頰を押さえながら、ありがとうと返す。
それから立ち上がった駿介が、萌のことをまじまじと見つめる。恥ずかしいからあまり見ないでほしい。でも、萌も駿介の私服姿をしっかりと見てしまうのだから、お互い様なのだろう。
「矢吹くんも、かっこいいね」
カジュアルな格好を想像していたのだが、駿介はきれいめなコーディネートだった。しかも今日は例のマフラーをしていない。そのことが萌を嬉しくさせた。
駿介の私服姿はいつもより大人っぽく見えて、萌の胸の奥がきゅんと鳴いた気がした。