ベージュのニットに、黒のフレアスカート。鏡の前でくるりと一回りしてみると、スカートがふわりと揺れた。
 さんざんショップで頭を悩ませて買ったものだが、購入してよかったと思う。セクシーさは足りないかもしれないが、上品なかわいらしさが萌は気に入っていた。
 服の色合いがシンプルなので、小物は差し色が欲しいな、と考えている時間も楽しい。
 コートは少し長めの白を選んだ。かわいい服が見えなくなってしまうのはもったいないので、寒さは我慢してコートのボタンは閉めない。
 少し歩くかもしれないので、フラットシューズにしようか迷ったが、フレアスカートの丈とのバランスを考えて、ロングブーツを履いていくことにした。ちょっとヒールがあって疲れるかもしれないが、おしゃれは我慢だ。

 髪をふんわりと巻いて、ハーフアップにする。本当は編み込みのハーフアップにしたかったのだが、何度練習しても上手に出来なかったので諦めた。
 髪留めはシンプルなシルバーのバレッタ。髪を巻いて少し印象が変わっているはずなので、髪留めはそんなに主張をしないものの方がいい。

 メイクは普段からしていないので、これ以上背伸びはしないことにした。
 最近ではメイク動画がたくさんインターネット上にあがっているので、それを見て勉強してみてもいいかもしれない。
 今は色付きのリップだけ。コーラルピンクのそれは、唇に色を乗せると、顔が少しだけ華やかになる気がした。

「お父さん、お母さん、どう? 変じゃない?」

 リビングでくつろいでいる母に声をかけると、「かわいいわよ、さすがお母さんの娘ね」と答えが返ってくる。
 渋い顔をして新聞を読んでいる父は、萌の方を見ようとしない。それが不思議で首を傾げると、母が笑いながら教えてくれた。

「お父さん拗ねてるのよ、萌がデートに行っちゃうから」
「えっ、そうなの?」
「拗ねてない。相手がちゃんとした男か心配しているだけだ」

 ムキになって言い返してくる父に、思わず笑みがこぼれる。そんな萌をじとりと睨みつけ、父は呟く。

「……お父さんは陸くんがいいと思うけどな」
「陸ちゃん? なんで?」
「あの子は礼節を弁えているし、文句なしにいい子だろう」
「それはそうだけど」

 野球をやっている幼馴染は、父のお気に入りなのだ。陸が礼儀正しいことも、性格がいいことも知っているので、萌も否定はしない。

「でも矢吹くんだって優しいし、真面目だし、努力家だし、礼儀正しいよ?」

 指をひとつ、ふたつ、と折りながらいいところを挙げていく度に、父の眉間の皺が濃くなっていく。
 きっと自分の目で確かめるまでは、納得しないのだろう。
 実際に駿介と顔を合わせれば、父が手のひらを返すところは容易に想像出来た。なので萌は、今はあまり気にしないことにした。

「で、お父さんから見てどう? 頑張っておしゃれしたんだけど、どこか変なところある?」

 萌の質問に、父は「スカートが短い」と即答した。
 確かに萌が普段私服で着ているものよりは短いが、制服のスカート丈よりちょっと短いくらいなので、気にするほどではない。
 他は? と訊ねると、悪くないんじゃないか、と素直じゃない答えが返ってきた。母がすぐさま「とびきりかわいいって」と翻訳してくれたので、萌は思わず吹き出したのだった。