少女漫画みたいだよね。
萌はヒロインじゃん! 羨ましい!
五十嵐のファンになりそう。
ね、きゅんとするって言ったでしょ?
そんな言葉を女子たちに投げかけられながら、萌は何も言えずに口をつぐんでいた。
何か話したら、絶対に面白がって噂が広まっていく。そんな予感がしたからだ。
今はとにかく健也か、もしくは駿介と話がしたかった。動画が撮られたのはお昼休み。つまり、駿介の昨日のメッセージは、このやり取りの後に送られてきたことになる。
今日の昼休みに二人で話をする約束をしたけれど、出来れば一分一秒でも早く駿介に会いたかった。
健也の考えは分からないけれど、萌が駿介を好きだという気持ちは変わらない。そのことを伝えておきたかったのだ。
「おっはよー」
人の気も知らず、健也はのんきに教室に入ってきた。
何かひとこと言ってやらないと気が済まない、いやその前に痴漢を捕まえてくれたお礼はちゃんとしなきゃ、と忙しく回る頭は、一瞬でショートした。
「い、五十嵐くん、髪っ!」
「雨宮ちゃんおはよー。イメチェンしたんだよねー、似合う?」
金色に近かった健也の髪は、暗いチョコレート色に変わっていた。髪の長さも短くなり、女子と遊んでいそうだったイメージが一転して、爽やかな好青年になっている。
背の高い健也がわざわざ萌の前に屈み、顔を覗き込む。そして、かっこいい? とやわらかい声で萌に訊ねた。
動画を見ていたときと同じくらい、心臓が大きく鳴った。心の中では、うん、と反射的に答えてしまうくらい。それくらい、新しい髪型は健也に似合っていた。
絶対に自分の顔の良さを自覚しているくせに、その訊き方はずるい。
褒めないと健也は引いてくれないだろう。でも素直に褒めるのはなんとなく悔しくて、萌は口をとがらせる。
「…………似合ってる、けど」
「けど? ……もしかして前の方がよかった?」
「あっちがうちがう! 絶対に今の方がかっこいいけど!」
「はい、雨宮ちゃんからかっこいい、いただきましたー」
周りから何故か拍手が起きて、萌の頰は熱くなる。
口車に乗せられた、というよりは、手のひらの上で転がされている。
萌の反応を見て、健也は顔をほころばせた。
「そういう反応するってことは、動画、見てくれたんだ?」
見たよ、見たけども!
健也に言いたいことはたくさんある。でも周囲の視線が集まる中で、これ以上何かを言葉にする勇気はなかった。
「いいからちょっと来て!」
お弁当の入ったミニバッグを忘れずに持って、健也の腕を掴む。ぐい、と引っ張ると、意外にも健也は素直に着いてきた。
どこなら人目が少ないだろうか、と考えて萌は渡り廊下へと足を向けた。一番に思い浮かんだのは中庭だったが、その場所で駿介への告白を目撃してしまったことがあるため、なんとなく嫌だったのだ。