動画の中には駿介と健也が映っていた。萌たちの教室ではなく、どうやら駿介の教室のようだ。廊下側、前から二番目に位置する駿介の席を、教室の前のドアから撮影しているように見える。
 健也が駿介の名前を呼び、駿介はそっけない返事をする。

 あれ、この二人、仲がよかったはずじゃ……。

 そんな疑問を抱いていたのも束の間。
 駿介の態度を特に気にする様子もなく、いつも通りの口調で健也がとんでもないことを口にした。
 
「駿介ってさ、雨宮ちゃんのことを好きだと思ってたんだけど、俺の勘違い?」

 大きく心臓が音を立てて主張し始める。隣にいる雪穂に聴こえてしまいそうで、落ち着かなかった。

 画面の中の健也は背を向けているので表情は分からない。でも、駿介の顔はしっかりと映っていた。
 驚きに目を見開き、それからわずかに怒りの入り混じった表情で、健也をまっすぐ見つめ返す。

「なんだよ急に。そんなの、どっちだとしても健也には関係ないだろ」
「あー、答えない感じ? 最近は麻衣と一緒にいるし、やっぱりそっちに乗り換えたんだ?」
「は?」

 萌は思わず画面の中に麻衣がいないことを確認した。駿介と麻衣は同じクラスだが、このときは近くにいなかったらしい。そのことに萌は少しだけ安堵する。
 今度ははっきりと怒気を帯びた駿介が、健也を睨みつけた。
 動画からも、ぴり、とした険悪な空気が伝わってくる。

「俺には関係ないって言ったけどさ、あるんだなー、これが」

 その場にいたら立ちすくんでしまいそうな空気の中でも、健也はいつものやわらかな口調を崩さない。

「駿介とは仲いいし? 雨宮ちゃんのことを好きなら、応援しようって思ってたんだよね」

 訝しげな表情を浮かべるだけで、駿介は口を開かない。
 萌も、息をすることさえ忘れて、動画に見入っていた。

「でも、やーめた。駿介が雨宮ちゃんのことを大事にしないなら、俺がもらっちゃうね」
「…………は?」

 え、と萌の口から小さくこぼれた声に、雪穂が隣で笑みをこぼした。そのことに気づく余裕もないまま、動画は進んでいく。

「俺も雨宮ちゃんのこと好きだからさ。あー、なんていうんだっけ、こういうの」

 呆然と立ち尽くす駿介に、健也の後ろ姿が首を傾げる。
 それから、ぐっと眉を寄せ厳しい顔をした駿介が「宣戦布告?」と訊ねると、それそれ! と健也は場違いに嬉しそうな声を上げた。

「ま、そういうわけだから。よろしくね、駿介」

 ひらひらと手を振り、健也がカメラの方へと歩いてくる。カメラが数歩後ろに下がると、健也は廊下に出て、レンズを覗き込んだ。

「撮影ありがとねー、桜木ちゃん」
「いいよ。けんけんの言う通り、おもしろいものも見れたし」
「じゃあ俺はこれから、もうひとふんばりしてくるねー」

 どこに行くの? と動画の中の雪穂が訊ねる。健也は振り向いて、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「女の子の関係整理? 雨宮ちゃんに本気になるなら、そこはちゃんとしておかないとね」
「殴られないでねぇ」
「はは、頑張るけどたぶん無理かなー」

 ぷつり。と動画が終わる。
 心臓がうるさい。自分のものじゃないみたいに、暴れ回っている気がする。
 いつのまにか萌と雪穂の周りには人だかりができていて、みんながその動画を見ていたことに気がつく。頰が熱くなるのを自覚して、萌は慌てて手で頰を押さえた。