健也とは別行動になってしまったが、隣に座っていたおばあさんが萌に付き添ってくれた。一緒に学校に行って代わりに説明してあげるわ、という優しい言葉に、萌は素直に甘えさせてもらった。とてもではないが、冷静に話せる気がしなかったからだ。
犯人はどうやら高校生、しかも同じ学校の生徒だったらしい。「君を助けた背の高い男の子と同じ制服を着ていたよ」と席を譲ってくれたサラリーマンが教えてくれた。
健也が犯人を連れて先にバスを降りた。萌は女性に支えられながら、後から着いていく。校門前に立っている体育教師が二人に気づき声をかけてくれる。
とても簡潔に、そして丁寧に説明をしてくれた。
教師は深々と頭を下げ、女性にお礼を言った。萌も一緒になって頭を下げ、後でお礼をしたいから、と名前と連絡先を訊ねる。おばあさんは萌の申し出を丁寧に断った後、優しく笑った。
「私もこの学校の卒業生なのよ。あなたが安心して学校に通えるようになるなら私はそれで十分よ」
そんな言葉を残して、女性は学校を去っていった。
バスの中で健也の呼びかけに応えてくれた人たち、席を譲ってくれたサラリーマン、萌に優しく声をかけそのまま学校まで付き添ってくれたおばあさん。そして、萌のために苦手な早起きをして、痴漢を捕まえてくれた健也。
いろんな人たちの優しさのおかげで、萌はなんとか立つことが出来ている。
「犯人を捕まえたっていうのは五十嵐なんだな? ということは、一緒にいたあいつがやらかしたのか……」
「あ、あの先生、私はどうしたら…………」
「今から誰か女の先生を呼んでくるから、保健室に行ってろ」
一人で行けるか? という問いに、萌は頷く。健也が先に犯人を連れて行ってくれたからか、バスの中にいるときよりも気分は回復していた。
それでも今はあまり男の人の近くにいたくない。優しくしてくれる体育教師には悪いが、それが素直な気持ちだった。
逃げるように保健室に駆け込むと、今日は保健医がもう来ていて、萌はほっと息を吐く。
事情をうまく説明することはできなかったが、あたたかい湯たんぽと毛布を貸してもらった。しばらく待っていると萌のクラス担任が迎えに来て、一緒に応接室へ向かった。