駿介と麻衣が乗った次のバスを利用して、萌も帰路についた。
今日は残って練習をしてこなかったため、いつもよりも早く家に着いてしまう。スマートフォンのメッセージアプリを立ち上げ、萌は少しだけ手を止める。無事に家につきました、と駿介に報告するのが最近では日課になっている。早い時間に帰ってきたことを知ったら、駿介はどう思うだろうか。
いつもと同じくらいの時間まで待ってからメッセージを送る、という手もあるが、やめておいた。同じ部活の仲間なのだから、萌が今日はいつもより早く帰ったことを、誰かから聞いてもおかしくないからだ。
おつかれさま。今日は早めに練習を切り上げちゃった。もう家に着いてるよ。
少し悩んで、そんな文章を入力する。
送信ボタンをタップして、しばらく眺めていたが、既読の文字はつかない。
まだ家に着いていないのかな。でも矢吹くんの方が早いバスで帰ったのに。
萌がスマートフォンの画面を見つめていても、駿介がメッセージに気づくわけではないので、そのままアプリを閉じる。
それから自分がまだ制服姿であることに気づき、萌は苦笑をこぼした。駿介のことばかり気にしていて、自分のことが抜けてしまっている。
ルームウェアに着替えて、そのままベッドに寝転んだ。久しぶりに早く帰ってきたのだから、何かした方が有意義なことは分かっている。机には昨日の夜遅くまで戦っていた英語の問題集が開きっぱなしになっているし、本棚の上には買ったまま手をつけていない本が積まれているのだ。
特別何かをしたわけでもないのに、ひどく疲れていた。眠気に逆らいきれず目を閉じると、そのまま夢の中へ誘われていくのだった。