駿介と麻衣が付き合っている、という噂が校内にじわじわと広がっていた。
どうやら二人は本当に一緒に登下校をしているようで、萌も一度だけ目撃してしまった。
遠かったので駿介の表情までは見えなかったけれど、好きな人を見間違えるはずがない。
二人が一緒にいることは驚かなかった。健也から前情報をもらっていたし、それに萌だって、付き合う前から駿介に送り迎えをしてもらっていた。
優しい彼のことなので、きっと何か事情があるのだろう。友達と登下校することは、おかしいことではないのだから。
自分にそう言い聞かせることで、萌は一人納得しようとしていた。
駿介に事情を訊けば教えてくれるかもしれない。それでも、訊けなかった。
萌に一緒に帰れなくなると言ったとき、彼は理由を言い淀んだのだ。きっと萌には言いにくい何かがある。それを無理に聞くのはこわかった。
でも萌は自分でも気づいていた。本当は、それだけではないことを。
駿介に麻衣とどうして一緒にいるの、と訊ねれば、萌の醜い嫉妬心をさらけ出すことになる。不安を口にすれば、駿介を信用していないことになってしまう。
そういう自分の弱くて汚い一面を、駿介に知られてしまったら?
うんざりとした顔をされるかもしれない。もしかしたら、嫌われて、しまうかも。
ほんのひとつまみの可能性に怯え、萌は不安と嫉妬心を心の奥にしまいこむことにした。誰にも見られないように、箱の中にしまいこんで、鍵をかけて。
萌が口にしなければ、誰にも見つかることはない。だから、言わない。