校内が賑わう昼休み。木漏れ日の差し込む静かな中庭で、二人の男女がひそひそと密談していた。
「あたしに協力してよ。あんた、雨宮萌が好きなんでしょ?」
気の強そうな少女が、自分よりずっと背の高い男子生徒を見上げて言う。男はへらりとした笑みを浮かべて、肩をすくめた。
「そうだとしても、なんで協力? 関係なくない?」
「あたしは駿介が好きなの。でも駿介は雨宮萌と仲がよくて、正直邪魔でしょうがない。あんたが雨宮萌をおとしてよ」
あたしはあんたにとっての邪魔者、駿介と上手くやるから。
自分に自信のあることが伺える発言だが、実際少女の容姿は整っていた。すらりと長い手足に、小さな顔。化粧によって大人びて見えるが、それを差し引いても間違いなく美人に分類されるであろう顔立ちだった。
対する男の方も、明るい茶色の髪の毛をしっかりとセットしていて、見た目に気を配っていることが分かる。人好きしそうな笑顔もあってか、彼女が複数人いそうな軽薄な雰囲気を纏っている。
「あの矢吹駿介だよ? 勝算はあるの?」
「ある。駿介を手に入れるためなら、どんな手だって使ってみせる」
不穏な言葉を口にした少女に、男は動じることなく「そういうことなら」と頷いた。
「協力関係になるからには、ちゃんと雨宮萌のこと、自分のものにしてよね」
そのまま立ち去ろうとする後ろ姿に、釘を刺す言葉が付け足される。男は振り返って不敵な笑みを浮かべ、その場を後にした。
残された少女はポケットから黒いハンカチを取り出した。そして、愛おしいものに触れるかのように、優しく両手で包み込む。
その瞳に涙が浮かんでいたことを、彼女以外、誰も知らない。