愛妻と母胎

「氷雨ちゃん、早く行こ!」


私の双子の片割れである、縢雨ちゃんが可愛らしく言った。


「縢雨ちゃん、忘れ物ない?」


私がそう聞くと、縢雨ちゃんは肩にかかっている鞄を漁って、「あっ」と声をあげた。


「筆入れ忘れちゃった!」


一度は玄関から出ていた縢雨ちゃんはバタバタと家の中を駆け回る。


その間に、私は靴を履いて玄関から出る。


「氷雨ちゃんごめん! おまたせ!」


すぐに縢雨ちゃんは出てきて、私の手に自らの手を絡める。


「いってきます」


そう、家に向かって言うと共に歩き始める。


(ひさ)ちゃんと(かな)ちゃんは今日も仲良しだねぇ」

「気を付けてらっしゃい」

「帰り、うちによってくれねぇか。娘に勉強を……」


色々な人に話しかけられる。


「氷雨、縢雨」

「氷ちゃん、縢ちゃん、おはよう」


後ろから、声をかけられる。


「おはよう、慧くん、紅くんっ!」

「おはようございます、慧、紅」


振り返ると、そこにいたのは幼馴染の慧と紅だった。


「氷雨は、今日も一段と綺麗だね。縢雨は今日も可愛い」

「慧兄、朝から女の子を口説かないの」


うっすらと微笑みを浮かべて言う慧に、紅がはぁ、とため息をつく。


「慧も、今日は一段と色っぽいですね。紅も」

「氷ちゃんも悪ノリしないの。あと、僕がすごく付け足した感満載なんだけど」


私達が向かっているのは、学校である。


慧が12年、私達が11年、紅が10年だ。


「氷ちゃんと縢ちゃん、明後日誕生日だよね。なにか欲しいものある?」


紅が、あ、と思い出したように問いかける。


「私は何にもいらないです。ただ、この日常が続けばそれでいいです」