「メリークリスマス! 」
 そう言ってクラッカーを鳴らす。
 人生初クラッカーはあまりにも音が大きくてびっくりしてしまう。
 それに奏がケラケラと笑った。
 1週間後に人生が終了する人の顔とは思えないくらい満面の笑みでケーキを頬張っていた。

 思い出話に花が咲く。
 こんなことあったね。
 出会った時はこんなふうだったよ。
 あれが面白かった。
 あの時は焦ったよ。

 お互い「そんなことあったっけ」という言葉が1度も出てこない。
 半年間の事を昨日のことのように鮮明に覚えているから「そうだったそうだった」「そのことは絶対忘れないよ」と言って笑い転げていた。
 
 「プレゼント、持ってきた? 」
 「もちろん」

 お待ちかねのプレゼント交換タイム。
 「はい、どうぞ」
 「うわ~なんだろ。楽しみ」
 2人ともわくわくしてラッピングを開ける。

 これは
 「ピアス? 」
 箱の中で小さく輝くそれは確かにピアスだった。
 「私まだピアス開けてないよ」
 「じゃあ、開けるまで死ねないね」
 奏はニヤッとして言った。
 ずるいな~。
 
 「桜は、ブレスレット? 」
 やった! と嬉しそうにすぐブレスレットをつけてくれる。
 やっぱりよく似合う。
 
 「これで私の事も連れて行ってね」

 私の言葉の意図を理解したのか奏は嬉しそうにほほ笑む。
 「一緒に来てくれるの? 」
 「これつけといてくれたらずっと一緒」
 少し照れくさい。
 普段なら言えないきざっぽいセリフに2人とも吹き出して笑い転げる。
 
 笑って、笑って、そんなに笑う? ってくらい笑って。
 
 違うよ。この涙は笑いすぎて出てきたやつだから。
 あ~面白い。

 奏は異変に気が付いたのか笑い転げる私を、そっと見た。
 
 「はぁ~笑った。お腹痛いよ」
 「うん」
 「涙出てきちゃった」
 「うん」
 「なんで、止まらないんだろうね」 
 「うん」
 「なんで」

 ねぇ、奏。

 「死なないでよ,,,,」
 
 私の止まらない涙を拭いながら奏が言った。
 「僕が優秀だったらな」
 違うよ。それは違う。
 「優秀だったら、こんなふうに出会えてないよ」
 奏が決断をしていなかったら、私達は出会わなかったんだ。
 あの日、病院の自販機コーナーで奏が書類を落としていなかったら始まらなかった私達の物語。
 
 「奏は奏のままで。それでいいんだよ」
 「桜は優しいね」
 
 奏をまっすぐ見る。
 奏の目はきれいだ。
 白い肌に茶色い目がよく映える。
 本当は今すぐにでもピアスを開けて、この奏がくれたピアスをつけて一緒に死にたい。
 でもそうしないのはこのピアスに込められた奏からの想いに応えるため。

 「私は、今目の前にいるこの奏が好き」

 その言葉と一緒に、奏は涙をこぼした。
 私が見る初めての奏の涙。


 奏のタイムリミットまであと1週間。