奏と色々話し合って10月は週に2回のペースで学校に通うことにしていた。
 週3回は奏に勉強を見てもらってるおかげでそこまで遅れを取らなかったし、クラスでも大きく浮くことはなかった。
 まだ頼まれたことを断れない癖は抜けていないけどそれを一緒にこなしてくれる子もちらほらいた。
 あと、奏という逃げ場があるということが多分心の余裕につながってるんだと思う。
 
 季節はもう11月。
 着々と奏のタイムリミットは近づいていた。
 クリスマスプレゼント、渡せるかな。
 そんなことを考えていた休憩時間中。

 「ごめん日高さん、足元いい? 」
 いきなり1軍の子に話しかけられて心臓が波打つ。
 「ご、ごめん」
 言われるがまま足をひょいと上げる。
 「あった? 」
 「なーい。まじ最悪なんだけど」
 私の足元をスマホのライトで照らして何かを探しているみたいだった。
 どうしよう、明らかに困ってるけど、私なんかが話しかけたところでだよね。
 どうしようどうしよう。
 
 大丈夫、私には奏がいる。

 そう心で唱えて勇気を振り絞った。

 「ど、どうしたの? 探し物? 」
 地面とにらめっこする1軍の子が顔を上げる。
 目が合って一気に緊張感が高まる。
 心臓出そう。

 「ん? あーそうそう。彼氏にもらったリングが落ちたんだよね。ブランド物だったしマジ萎える」
 うちの高校は比較的、いや、だいぶ校則が緩いのでピアス以外のアクセサリーならあまりとやかく言われなかった。
 大事なものなら確かにショックかも。
 一緒に探すよとは言えずそれとなくといった感じで床を見渡した。

 私の席から2つ前の子のカバンの下に少し光が見えたような気がした。
 「ごめんね」
 そのかばんの主が男子だったから触ると何か言われそうだし、なるべく手を触れないようにその光の正体を手に取る。

 「これだったりする? 」

 手のひらにそれを乗せ、見せる。

 「えっ待って! それ! 」
 1軍の子の声がクラスに響き渡る。
 「あ、よかっ,,,,」
 「えあったの? 」
 1軍に押しつぶされる。
 ここでもきっと感謝はされなんだろうな。

 「日高さんが見つけてくれた! 」
 
 嘘かと思った。今、呼ばれた自分の名前が。

 「まじ? あんた日高さんに感謝しなよ」
 「いやほんとに。日高さんありがと~。神。神すぎる」

 こんな展開予想してなかったし、はじめてのことだったから上手く返せずにチャイムが鳴る。

 その日は嬉しくてそわそわして、奏にも自慢げに話した。
 「すごいねよかったじゃん! 」
 と奏も手を叩く。

 その日から学校に行った日は皆挨拶をしてくれるようになったし、面倒ごとを頼まれることもほとんどなくなった。
 1軍のパワーってすごい。
 その子が話しかけてくれるようになってから皆が少しずつコミュニケーションを取ってくれるようになった。


 「ねえ奏! 」
 「お、どうした~」
 「みて」
 奏にスマホの画面を見せる。
 「”遊びに行かない? ”え、すごいじゃん! 」
 「でしょ! 」
 それはクラスの男子からの遊びのお誘いだった。
 男の子に誘われるなんて初めてだ。
 浮かれすぎて何か失敗しても嫌だから断ろうかとも思ったけど奏に背中を押され、行ってみることにした。