「私、学校行こうかな」
夏休み最終日。奏とお昼ご飯を食べているときにそうつぶやいた。
だって、課題こんなにちゃんとやったし。
ちょっとくらいクラスになじめたりしないかな~なんてバカみたいな淡い期待。
「いいじゃん! 行ってきな行ってきな」
奏も嬉しそうに揺れてる。
そんな顔して、人のことで喜んでる場合なの? とか思うけど本当に嬉しそうに笑うからこっちまで少しだけ嬉しくなる。
奏がいるなら学校も乗り越えられるかもしれない。
1歩踏み出してみるのもありかな。
「じゃあ明日、帰り迎えに来てよ」
お昼を1口頬張って「もちろん」という言葉を期待して言う。
でも奏は少し表情を曇らせて
「ごめん、明日は病院に行かないと」
そう言った。
なんだ。残念。じゃあ明日病院行ったら会えるかな。病院のあと、会ってくれるかな。
いつの間にか奏に会うことが当たり前になっていた。
奏が心の支え? 出会って1か月足らずで?
でも多分そうなんだろうな。
明日、学校終わったら奏に学校の話できるかな。
「え、何しに来たの? 」
教室に入って1言目。
おはようよりも先にその言葉が飛んできた。
なに、しに?
私って学校くる資格ないってこと?
その言葉が放たれた瞬間、急に皆の顔がゆがんで見えた。
「何しにって始業式に決まってんじゃん」
「急にモラル無くてビビるんですけど」
そうやって一見私をフォローしてくれているような言葉でさえ、全部馬鹿にされているようだった。だって笑ってるし。皆。
”こいつにそんなこと言ったらかわいそうでしょ”
”一応周りの目気にしてフォローしとくか”
こんなふうにしか聞こえない。
チャイムギリギリに教室入ってよかった。
いったん気持ちに区切りがつく。
なのに。
「あら、日高さん今日来たの」
先生のその1言でクラスに笑いの嵐が起きた。
「先生も来ると思ってなかったんかい」
「先生くらいは嬉しそうにしてやれよ」
「言い方辛辣で草」
今から出すと思っていた課題のプリントたちを握る手に力がこもる。
別にいじめにあったから不登校になったわけじゃない。
先生もさっきの子も悪気があったわけじゃないのはわかってる。
現に先生は「違う違うびっくりしただけ。そうやってからかうのやめなさい。せっかく来てくれたんだから」と皆をなだめている。
前の席の子はこちらを向いて「せっかく来てくれたのにごめんね。皆ノリうざめなんだよねこのクラス」
と私を慰めてくれている。
よく知ってる。
1年生の夏休みが終わった段階でこんなにクラスが盛り上がれるのは、もう付き合いが4年目に突入しているからだ。
というのもこの学校は中高一貫校で高校から入ってくる人はいない。
私は小学生から成長していないようなこのノリが中学3年生の時から無性にしんどかった。
1軍や陽キャと言われたいうるさいだけの人たちに合わせるだけの空気感が重かった。
今の前の子みたいに高校生らしく大人になっていっている人もいる。
でも心は中学生がはびこるこの学校は息が苦しかった。
気持ち悪い。
こみあげてくるものをグッと飲み込み、静かに教室を出た。
自分の事しか見えていないこのクラスの人たちはこんなこと気づかないでしょ。
でもあそこで倒れた絶対次来にくくなる。
”次”
私成長したのかな。
奏のおかげ?
次の事考えてるよ。
今までならありえなかった。
何とか保健室にたどり着いて、先生が「いらっしゃい」といった声がフェードアウトしてそこで意識が途切れた。