「次の方、呼びましょう」
「はい、わかりました」
静かにせわしない院内で今日もクライアントとお話をする。
心はデリケートだ。
誰にも見つけられず、閉じこもってしまった声を聞きだすのが私の仕事。
私はあれから通信制の高校に入りなおし、高卒認定試験を受けた。
祖父母に頭を下げ、借金という形で。
その後1度就職し、通常より3年遅れて大学に入学。
これも奨学金を借りての入学なので正直お金の面ではかなり苦労をした。
さらに公認心理士の資格を取るため、大学院に入学。
なんとか国家資格をとり今ではセラピストとして病院に勤務している。
「先生、午前最後の方終わりました」
「じゃあお昼にしましょう。お疲れ様」
カウンセリングは完全予約制だから休憩時間がわりかししっかりとれる。
このお昼ご飯の時間も至福の時間だ。
「あれ、桜先生素敵なピアスですね。なんのお花ですか? 」
いつもカウンセリングの時はアクセサリー類は外しているのに今日はうっかり忘れてたみたい。
ピアスにそっと触れて、言う。
「これはね、タツナミソウ。私の大切な人がくれたの」
その言葉に「大切な人って? 」と若い子達が興味津々だけど、「秘密」とウィンクをして外の風を浴びに行く。
今日はいい天気。
このままあの人のもとへと飛んでいけそうなくらい雲1つ無い快晴。
奏。
幸せってなにもお金持ちになるとか、結婚して家庭をもつとか、そういうのだけじゃないと思うの。
私は今、昔の私達のような人を1人でも多く救いたくて
一生懸命やってるよ。
挫折しそうになることもまだまだ沢山あるけど
私のおかげで生きようと思えたって人がたしかにいるの。
これが私の幸せの形。
奏、見てる?
私、今 幸せだよ