久しぶりに帰ってきた日本は、あまり変わっていなかった。
景色も空気も、なんだか懐かしい。
バックパックを背負った俺は、実家へ向かうよりも先に、美海の家を訪ねる。
ピンポン、とインターホンを鳴らすと、美海の母が出てきた。少し小さくなった気がするのは、俺の背が伸びたせいだろうか。
「あらあら久しぶり。凪斗くん、今度はどこに行ってきたの?」
「アフリカの方です。ヨーロッパの方とは気候も食事も全然違うから大変でしたよ」
そんな会話をしながら、居間に通される。バックを置かせてもらって、仏壇の前に膝をつく。そして相変わらずとびっきりの笑顔で、かわいさを押し出してくる美海の遺影に手を合わせる。
「…………美海、久しぶり。まだ世界一周はできてないけどさ、アジアとヨーロッパをぐるっと回って今回はアフリカ。いろんなところに行ってきたよ」
そうなの? 楽しかった?
そんな声が聞こえてくる気がする。
記憶の中の美海はいつも笑顔で、つられて笑ってしまうような明るさを持っている。
自然と緩んだ頰に気づかないまま、俺は美海に語りかける。
「いろんな人と会って、話して。海も見たりして、世界は広いなぁ、日本ってちっちゃいなぁ、なんて思ったりしてさ」
まぁ、言いたいことはそんなことじゃないんだけど、と照れ笑いをこぼし、写真の美海を見上げる。
うん、やっぱり、これだけは自信を持って言える。約束だった言葉。これから先の人生をかけて、証明していきたい約束。
「いろんな人と出会ったけど、…………やっぱり美海が世界でいちばん、きれいだよ」
左手薬指にきれいにおさまっている指輪をそっと撫でて、呟く。
どこかで美海が、朗らかに笑ったような、そんな気がした。