時期はなるべく早く、美海の体調が急変する前に。
 それが結婚式を挙げるにあたっての最大の課題だった。
 俺は最近ほとんど発作も起きていないので自由に動き回れるが、入院中の美海はそうもいかない。
 結婚式のプランを練るのに、テレビ電話を使った。ウェディングプランナーの人は親身になって相談に乗ってくれて、美海も式を楽しみにしているようだった。
 ドレスは候補を決めて、体調のいい日に試着させてもらった。ドレスについては全く知識がなかったので、プリンセスラインがいいとこだわる美海の意見を尊重することにした。ウェディングドレスを選んで、カラードレスの試着を始めたとき、口を出すつもりはなかったのに、思わず声をあげていた。

「美海、すごく似合ってる」
「えっ?」

 胸元は儚く淡い空色。グラデーションがきれいで、足元のあたりは深い海の色をしていた。
 明るい色のドレスもかわいい。ピンクもオレンジも、美海によく似合っていたと思う。
 でもどのドレスよりも、青いドレスが美海の魅力を引き出していた。
 少しあどけないかわいさと、ときおり見せる憂いを帯びた美しさ。青のグラデーションのドレスは、美海のために作られたように輝いて見えた。

「これにします」

 美海の明るい声が試着室に響く。
 他のドレスを着たときはもっと悩んでいたのに、あまりにも即決だったので、戸惑ってしまう。

「え、でも美海。ピンクとかオレンジとか、赤のやつも気に入ってたんじゃないの」

 俺の言葉に、美海はいたずらな笑みを浮かべる。

「だって、せっかくならなぎちゃんが一番気に入ってくれたドレスがいいもん!」

 その方が、ドキドキするでしょ?
 そう言って笑う美海に、俺だけではなく、一緒に来ていた親たちも目を丸くする。それからみんなで顔を見合わせて、笑い出す。

「美海ちゃんには敵わないなぁ」
「へそくりを出してでも、もう一着きてもらわないと」
「そうねぇ。せっかくだから大人っぽいブルーと、かわいらしい色も欲しいわね」
「お父さんはピンクもかわいかったと思うよ」

 両親たちの言葉に、今度は美海と俺が笑い出す番だった。
 じゃあもう一着お願いします、と二人で頭を下げると、もちろん喜んで、と四人の声が重なった。