僕は浜辺のほうに向かい、まわりの物を拾い上げたり、掘り起こしたりしてみた。
「なにしてるの? 先生」
「杏莉さんへのプレゼントを探してるんです」
「プレゼント?」
 首をかしげる杏莉さん。
 時間はかかるかもしれないけど、ちょっと待っててください。
「ほら、見つけましたよ」
 僕は浜辺から拾い上げたプレゼントを杏莉さんに手渡した。
「これは?」
 杏莉さんの小さな手のなかに、淡いブルーの曇りガラスが光ってる。
「シーグラスです。海に捨てられたガラスが波にもまれて丸くなったんですね。このガラス片は、きっと多くの外国の海を渡ってここまでやって来たにちがいありません。今すぐに外国に飛んでいくことはできないけれど、シーグラスを見てると遠い国の息吹を感じませんか?」
 
 南国の熱くて華やかな薫香を。
 雪国の朝のしいんとした空気を。
 大都会の雑踏を。
 あこがれのローマのにぎわいを。

 シーグラスを手にした杏莉さんの顔に、ふふっと明るい笑みが戻る。
「先生って詩人ね。だけど、おっかしいの。砂だらけ!」
 あ、しまった。ジーンズがすっかり砂で汚れてる。みっともない。
 元気づけようと思ったのに、かえってカッコ悪い姿をさらしてしまった。
「これ……私にも見つけられるかしら」
「チャレンジしてみますか? 僕みたいになりますけど」
 パンパンと砂をはたきながら話す僕に、杏莉さんは大きくうなずいて、
「えぇ、見つけたら先生にあげるわね」
 と、ウキウキしながら浜辺を観察しはじめた。

「これも、これもちがうわね」
 貝殻や流木の類は見つかるけれど、シーグラスはなかなか見つからなかった。
「少し休けいします? ジュースでも買ってきましょうか」
 そう声をかけたけど、杏莉さんはかたくなに首を横に振って、
「もう少し待って。別のところも調べてみるから」
 と、無心でシーグラスを探している。
 杏莉さんに付き添って様子を見ていると、
「あった! あったわ!」
 杏莉さんの手にはうすいピンク色をした小さなシーグラスが握られていた。
 どこか花びらの形にも似ている、かわいらしいガラス片だった。
「すごい、よく見つけましたね」
 杏莉さんはすごいでしょ! と自慢げに口の端をあげてみせた。
「ほら、先生。あなたに――」
 杏莉さんが僕に向かって見つけたシーグラスを差し出した。
 だが、その手はほどなくして浜辺の上に倒れこんだ。
「杏莉さん!」
 すぐさま杏莉さんを抱きかかえると、杏莉さんはチラ、と僕の顔を見た。
 どうやら意識はあるようだ。
「ゴメンなさい……つい、はりきりすぎたみたい」
 杏莉さんは静かに目を閉じた。
 すると、背中に白い光がきらめくのが見えた。
 昨日見たのと同じような光、だけど今日はもっと大きく、はっきりしている。
 なにか嫌な予感がして、僕は急いで杏莉さんを連れて病院に戻った。