次の日も、天気はすっきりと晴れ渡り、絶好の外出日和。
 杏莉さんのリクエストどおり、今日は海辺へ向かった。
 キラキラとしぶきをあげては打ち寄せる波。
 離れていても、潮の香りがただよってくる。
「観覧車から見たときも思ったけど、近くだとより大きく感じるわね」
 今日はさわやかなレモンイエローのワンピースを着た杏莉さんは、ニコニコと海をながめてる。
「もっと海のそばにいってみたいけど、車椅子じゃ砂浜は移動しづらいかしら」
「それなら、僕がおぶっていきます。背中に乗ってください」
 と、かがんでみせると、杏莉さんはぶんぶんと両手を振ってためらった。
「おんぶなんてイヤよ! 私、赤ちゃんみたいだわ」
「じゃあ、抱っこにします? お姫さま抱っこ」
 杏莉さんの顔がますます赤くなる。
「そっちもイヤ。もっと恥ずかしい」
「杏莉さん、意外とシャイですね」
 病院ではワガママお姫さまで有名なのに。
「イジワルね。つつしみ深いって言ってよ」
 ブツクサ怒りながら、杏莉さんはしぶしぶ僕の背中に身体を預けた。
「わぁ、軽いですね。杏莉さんは」
 思わずそんな本音を口にしたら、
「先生、女の人に対して軽いとか重いとかどうこう言うのは失礼なのよ!」
 と、杏莉さんに叱られた。
「先生って、カッコいいのに、女の人のことに関してはちょっとデリカシーに欠けてるわよね」
 背中で杏莉さんの嘆く声が聞こえる。
「もっと勉強します」
 
 しばらく歩いたあと、
「さぁ、着きましたよ」
 と、杏莉さんを砂浜におろすと、杏莉さんはちょっと不満そうに、
「もう少しいっしょに散歩していたかったわ」
 と、僕の顔を見上げた。
 さっきは恥ずかしいって言ってたのに……女の人の気持ちは、まだまだよく分からない。

「あーっ、船だわ!」
 遠くのあたりで船が浮かんでいるのを杏莉さんが見つけた。
 観光船だろうか。離れた砂浜からでも白くて大きな船体がはっきりと見える。
「あの船、外国から来たのかしら?」
「そういえば近くの港に、たまに海外からの客船が停泊するってニュースで言ってましたよ」
 何か月もかけて、世界じゅうの国々をめぐるのだという。
 まさに壮大な冒険だ。
「海外かぁ……どんなところか一度行ってみたかったわ」
 杏莉さんが目をふせる。
「王女さまが過ごしたローマにもついに行けずじまい。十六歳になったばかりなのに、もうすぐ死んじゃうなんて。人生なんてあっという間ね」
少し冷たさの残る潮風が、静かに杏莉さんの髪を揺らす。
「なんだかいつもの杏莉さんらしくありませんね。妙にしんみりしてる」
 すると、杏莉さんは
「なにその言いかた。まるで私が普段まったくしおらしさのない人間みたいじゃない」
 と、キッと眉をつり上げた。
「そんなこと言ってません。ただ、どうせなら楽しい気分で過ごしませんか。デートなんですから」