「スクーターほどスピーディーではないかもしれませんが、ふたりで乗れる乗り物はありますよ。ほら」
僕が指さした先には、青空をバックにゆったりと動く少し色あせた観覧車のゴンドラたち。
杏莉さんの顔が、雲間から顔をのぞかせた太陽のようにパッと輝いた。
ここの遊園地の観覧車は、バリアフリーに対応していて車椅子ごと乗車が可能。
ジェットコースターには乗せてあげられなくて残念だけど、そのぶん杏莉さんには思うぞんぶん空中散歩を楽しんでもらおう。
「ようこそ。今日はご家族でお出かけですか?」
乗車前に係員のお姉さんにそう声をかけられた。
「いいえ。私たちカップルよ。今日はデートなの、いいでしょ」
と、杏莉さんはキッパリ。
そうズバッと人前で言われると、ちょっと恥ずかしいんですけど。
お姉さんは一瞬少し驚いた顔をしたけど、すぐに、ふふふっ、と笑って。
「ステキなカップルですね。どうぞごゆっくりデートを楽しんでください」
と、笑顔で僕たちを送り出した。
「ご家族ですか? ですって。私と先生じゃカップルに見えないのかしら。やっぱり年の差のせい?」
杏莉さんは、さっき係員のお姉さんから言われた言葉がどうしてもひっかかるらしい。
「でも、そのあとステキなカップルですね、とも言われましたよ」
けれども、杏莉さんは相変わらず納得がいかない様子で、
「あんなのお世辞よ。私と先生じゃとてもつり合わないと思われてるんだわ」
と、うつむいた。
そのとき、ゴンドラが大きく動き出した。
「きゃ――」
少しふらつく杏莉さん。僕は杏莉さんの両手をしっかりと握りしめた。
「大丈夫ですよ。観覧車が動いている間、ずっとこうしていますから」
とても小さくて、ちょっと冷たい杏莉さんの手。
「今日は、僕たちデートでしょう?」
なんて、いたずらっぽく笑ってみせると、杏莉さんの顔にサッと赤みが差した。
「うれしいわ。私、今文字どおり天にも昇る気持ちよ!」
あれっ。
杏莉さんの後ろで、星くずのような光がきらめいた。
なんだったんだろう? と、もう一度見てみたけど、すでにその光は消えていた。
窓から入りこんできた西日が反射したんだろうか? それとも、ただの気のせいかな。
「先生、見て見て!」
杏莉さんの、子どものようにはしゃく声で、はっと我に返った。
「ほら、ここから海が見えるわ」
上空にのぼった観覧車の窓の外に広がる、大きな青い海。
「私、明日はあの海辺を散歩してみたいな。ね、いいでしょう? 先生」
明日……。
――あのね、私が死ぬまであと三日間なの。
大丈夫。そんなはずはないから。
杏莉さんはとっても元気じゃないですか。
「分かりました。行ってみましょう」
明日も、あさっても、そしてこれからも。
杏莉さんはいろんな景色が観られますよ、きっと。
僕が指さした先には、青空をバックにゆったりと動く少し色あせた観覧車のゴンドラたち。
杏莉さんの顔が、雲間から顔をのぞかせた太陽のようにパッと輝いた。
ここの遊園地の観覧車は、バリアフリーに対応していて車椅子ごと乗車が可能。
ジェットコースターには乗せてあげられなくて残念だけど、そのぶん杏莉さんには思うぞんぶん空中散歩を楽しんでもらおう。
「ようこそ。今日はご家族でお出かけですか?」
乗車前に係員のお姉さんにそう声をかけられた。
「いいえ。私たちカップルよ。今日はデートなの、いいでしょ」
と、杏莉さんはキッパリ。
そうズバッと人前で言われると、ちょっと恥ずかしいんですけど。
お姉さんは一瞬少し驚いた顔をしたけど、すぐに、ふふふっ、と笑って。
「ステキなカップルですね。どうぞごゆっくりデートを楽しんでください」
と、笑顔で僕たちを送り出した。
「ご家族ですか? ですって。私と先生じゃカップルに見えないのかしら。やっぱり年の差のせい?」
杏莉さんは、さっき係員のお姉さんから言われた言葉がどうしてもひっかかるらしい。
「でも、そのあとステキなカップルですね、とも言われましたよ」
けれども、杏莉さんは相変わらず納得がいかない様子で、
「あんなのお世辞よ。私と先生じゃとてもつり合わないと思われてるんだわ」
と、うつむいた。
そのとき、ゴンドラが大きく動き出した。
「きゃ――」
少しふらつく杏莉さん。僕は杏莉さんの両手をしっかりと握りしめた。
「大丈夫ですよ。観覧車が動いている間、ずっとこうしていますから」
とても小さくて、ちょっと冷たい杏莉さんの手。
「今日は、僕たちデートでしょう?」
なんて、いたずらっぽく笑ってみせると、杏莉さんの顔にサッと赤みが差した。
「うれしいわ。私、今文字どおり天にも昇る気持ちよ!」
あれっ。
杏莉さんの後ろで、星くずのような光がきらめいた。
なんだったんだろう? と、もう一度見てみたけど、すでにその光は消えていた。
窓から入りこんできた西日が反射したんだろうか? それとも、ただの気のせいかな。
「先生、見て見て!」
杏莉さんの、子どものようにはしゃく声で、はっと我に返った。
「ほら、ここから海が見えるわ」
上空にのぼった観覧車の窓の外に広がる、大きな青い海。
「私、明日はあの海辺を散歩してみたいな。ね、いいでしょう? 先生」
明日……。
――あのね、私が死ぬまであと三日間なの。
大丈夫。そんなはずはないから。
杏莉さんはとっても元気じゃないですか。
「分かりました。行ってみましょう」
明日も、あさっても、そしてこれからも。
杏莉さんはいろんな景色が観られますよ、きっと。