「うれしーい! 最高!」
 杏莉さんの明るい声が響く。
 外出の許可は驚くほどあっさりとおりた。
「古代先生さえよければ、ぜひお願いします!」
 杏莉さんのご家族からは深々と頭を下げられ、
「せっかくだから、三日間きちんとおつき合いしなさい。女性のほうからデートに誘ってくるなんてのは、一生のうちにそうそうないことだよ。いいかげんな気持ちじゃダメ。しっかりね」
 と、杏莉さんの主治医の先生からはかなり強めに背中を押された。
「今日はポカポカいい日和ね。春のにおいがする」
 久々に青空の下に出た杏莉さんはほんとうに元気そう。
 腰かけている車いすから今すぐにでもシャキッと立ち上がって駆け出しそうなくらいだ。
「どう? この服、ステキでしょ。とっておきのワンピースなの」
 今日の杏莉さんは、淡い若草色のロングワンピースを上品に着こなしている。
「よく似合ってますね」
 そう言うと、杏莉さんはチラッと僕に目をやって。
「先生はちょっと地味ね。全身モノトーンだなんて。悪くはないけど、もっと明るい色着ればいいのに」
「無難な感じが好きなもので」
 学生の頃から服の趣味はまったく変わってない。
 というか、服には無頓着なほうなのだ。
「先生、まだまだ若いじゃない。今のうちから守りに入るなんておかしいわ。おしゃれはたくさん失敗してこそ磨かれるのよ。ま、私にはもともとセンスがあったけどね」
 ふふん、と鼻高々に笑う杏莉さん。
「さて、どこに行きますか? どこにでも連れて行ってあげますよ」
 すると、杏莉さんは
「そんなの決まってるじゃない。デートといったらやっぱりあそこよ」
 と、力強く両手を合わせた。