「そうだ。先生、デートしてよ!」
「デート?」
 びっくりした。かけていたメガネがずり落ちるかと思った。
「杏莉さんにはお友だちがたくさんいるでしょう。ボーイフレンドだって」
 けれども杏莉さんは不機嫌な様子で、
「そんなのいるわけないでしょ。みーんな私のもとからいなくなっちゃったのに」
 と、ウサギのぬいぐるみを抱えた。
「それは杏莉さんが連絡を取ってないからですよ。声をかけてみればみんな――」
「私は古代先生がいいって言ってるでしょ?」
 強い口調の杏莉さん。どうして僕が?
「だって、僕はしがない研修医ですよ?」
 たしかにいつも杏莉さんの病室には顔を出していますけど、あなたとのデートにふさわしい人間でしょうか? 
 年齢は二十四歳。学生時代、付き合っていた人がいたこともあったけど、長くは続かず、現在はずっとフリー。
 背ばっかり高くて、決してあか抜けてもいないのに。
 すると、杏莉さんは眉間に深いしわを寄せて、
「先生はそういう後ろ向きなところがダメなのよ。あなたには未来があるのに」
 と、僕をしかり飛ばした。
「すみません……」
 シュン、と縮こまる僕に杏莉さんはニコッと笑って。
「古代先生はとてもステキな人よ。だから私、この三日間は先生といっしょにいたいの。いいでしょ? たった三日間だけだから。おねが~い!」
 三日が過ぎても、杏莉さんは元気だと思うけど。
「ほんとうに僕でいいんですか?」
「えぇ。先生じゃなきゃダメ。断ったら私今すぐ死んじゃうから」
 と、杏莉さんは一歩も退かない。
「……分かりました」
 こんなに熱烈なアプローチを受けるのは、人生で最初で最後かもしれない。