ーーー 日曜日。駅前の噴水広場の噴水前で、洸はそわそわとスマートフォンの時計を眺めていた。
駅前のみ栄えた町で、こうして噴水前にいる人々は、大半が待ち合わせをしている人達で、さらにその大半が恋人という、普段なら洸にとって居心地の良い場所ではなかった。
しかし今日は、例に漏れずに、洸も待ち合わせという理由でその場に来ており、更にその待ち人は、他でもない咲耶という、人生で初めての経験をまさに体感中で、この日のために買った、デニム、紺色のニットをインナーに、黒のテーラードジャケットを着こなし、そのジャケットの裾にいじらし気に触れていた。
こうなった要因は、尚人の一言だった。
「今度の日曜日、親睦会やらね? 折角、咲耶も、顔を出してくれるようになったんだし、お互いにもっと、親交を深めるべきだと思うんだよ」
神影も、今年オープンしたての喫茶店に行きたいと、尚人に便乗する。
正直、その時は、咲耶は来ないだろうと、そう洸は考えていた。
しかし、咲耶は、行くとは言わなかったものも、拒否もしなかったため、洸は、その変化に小躍りそうな気持ちを抑えながら、今日を迎えていた。
神影は隣町、尚人はさらに隣町の住人のため、徒歩で来る事の出来る洸は、居てもたっても居られずに、集合よりも三十分早く、噴水前に到着していたのだった。
はじめは家が近所の咲耶と、一緒に来ようか迷っていたが、結局、未だに来るのか、来ないのか返答のない咲耶を、無理矢理引き連れるのは、気が引けた洸は、来てくれる事を祈りながら、落ち着きなく時計と、咲耶が来るであろう方向を、何度も繰り返し見ていた。
それはまるで、初デートで緊張している図に見えて、周りの人々からは、微笑ましい視線を向けられている。
そんな視線にすらも気づかいほどに、洸は緊張していた。
洸の体感では、時の経つスピードは、倍遅く感じていた。一分、一分。数字が変わる瞬間を、目に焼きつけながら、待ち人の訪れを期待している。
しかし、時間が進むにつれて、現れる様子のない待ち人の姿に、緊張とは別に、不安が増幅していき、それによって落ち着けない状況へと変わる。
集合まで十分前、そろそろ二人の乗る電車も着く頃だ。それでも一向に、咲耶の姿は現れる事はない。
「やっぱり………来ないか……」
そう、諦めかけていた時だった。
「おはよう」
洸の今一番聴きたい声が、背後から薄明光線のように浴びせられた。
そんな不意打ちにビクリと肩を弾ませながら、勢いよく振り返る。
「さ、咲耶! ど、どど、どうして!? 」
「何よそれ? 随分なご挨拶ね」
「いやいや! だってさ! てっきりあっちから来ると思って、姿が見えないから、来ないのかな~と思って、そしたら、急に現れるんだもん! 」
「休日に出かけることなんて稀だし、折角だから、あっちの河川敷の方から来たのよ」
「そ、そそ。そういうことね。びっくりしたよ~」
洸は、バクバクと高鳴る鼓動を抑えつつも、さっきまでの緊張が消え去っていた事に気づく。
予期せぬ展開のおかげで、緊張が塗り固められたようだ。
「ともかく。おはよう」
そして、ようやく挨拶を返せた所で、駅の方から歩み寄る、二つの影に気づく。
「お待たせ! うんうん! 咲耶さんも来てるね! 良かった!良かった! 」
神影は落ち着いたブラウンのスカートと、深緑色のニットを合わせた、大人っぽいコーデを披露しながら、笑みを浮かべる。
その隣には、ジーンズの裾をロールアップさせて、紺シャツのアウター、無地Tシャツを合わせた、眠たげな尚人の姿もある。
「わぁ! 二人ともお洒落さんだね! 」
そして、洸と咲耶の前に立つ神影は、爪先から顔を見渡して、目をキラキラと輝かせる。
その神影の言葉で、ようやく咲耶の全体を見渡した洸は、言葉を失い見惚れてしまう。
洸の目には、黒のロングワンピースが、艶やかな長い髪と映えて、とても妖艶で美しく映っていた。
「おはよう」
そんな咲耶の世辞にも、凛とした態度で返答する咲耶は、さながら、高嶺の花と呼ぶには、相応しいオーラを纏っている。
「それじゃあ、早速だけど、行こっか」
店を知っている神影が先頭で歩き出す、その斜め隣、将棋の銀ならば、相手の駒を取るには絶好の位置でついて歩く咲耶。
そして、その後ろに男二人が並び歩いていく。
「愛しの咲耶さん。あぁ。綺麗だ。その長い髪を食べてしまいたい。その全てを僕のものにしたい」
洸の隣を歩く尚人が、洸にだけ聞こえるボリュームで、勝手に洸の心の声をアフレコする。
「やめろ。そんな、変態じみた事、考えていないから」
「でも、ニアピンだろ? 」
「いや、ごめん。全然、ニアじゃない。すご~い田舎の、近所くらい、ニアじゃないから」
「そんなに? 駅から徒歩十分が、以外に遠い! ってくらいじゃね? 」
「僕、歩くの嫌いじゃないから、そんなに苦じゃないし、そんなの、感覚でしょ? 」
「そんなこといったら、田舎の近所だって、感覚の中の話でしかないだろ? 」
「まぁ、それもそうか」
と、何の中身もない話をしているうちに、四人は、お目当ての喫茶店へと辿りついていた。
駅前のみ栄えた町で、こうして噴水前にいる人々は、大半が待ち合わせをしている人達で、さらにその大半が恋人という、普段なら洸にとって居心地の良い場所ではなかった。
しかし今日は、例に漏れずに、洸も待ち合わせという理由でその場に来ており、更にその待ち人は、他でもない咲耶という、人生で初めての経験をまさに体感中で、この日のために買った、デニム、紺色のニットをインナーに、黒のテーラードジャケットを着こなし、そのジャケットの裾にいじらし気に触れていた。
こうなった要因は、尚人の一言だった。
「今度の日曜日、親睦会やらね? 折角、咲耶も、顔を出してくれるようになったんだし、お互いにもっと、親交を深めるべきだと思うんだよ」
神影も、今年オープンしたての喫茶店に行きたいと、尚人に便乗する。
正直、その時は、咲耶は来ないだろうと、そう洸は考えていた。
しかし、咲耶は、行くとは言わなかったものも、拒否もしなかったため、洸は、その変化に小躍りそうな気持ちを抑えながら、今日を迎えていた。
神影は隣町、尚人はさらに隣町の住人のため、徒歩で来る事の出来る洸は、居てもたっても居られずに、集合よりも三十分早く、噴水前に到着していたのだった。
はじめは家が近所の咲耶と、一緒に来ようか迷っていたが、結局、未だに来るのか、来ないのか返答のない咲耶を、無理矢理引き連れるのは、気が引けた洸は、来てくれる事を祈りながら、落ち着きなく時計と、咲耶が来るであろう方向を、何度も繰り返し見ていた。
それはまるで、初デートで緊張している図に見えて、周りの人々からは、微笑ましい視線を向けられている。
そんな視線にすらも気づかいほどに、洸は緊張していた。
洸の体感では、時の経つスピードは、倍遅く感じていた。一分、一分。数字が変わる瞬間を、目に焼きつけながら、待ち人の訪れを期待している。
しかし、時間が進むにつれて、現れる様子のない待ち人の姿に、緊張とは別に、不安が増幅していき、それによって落ち着けない状況へと変わる。
集合まで十分前、そろそろ二人の乗る電車も着く頃だ。それでも一向に、咲耶の姿は現れる事はない。
「やっぱり………来ないか……」
そう、諦めかけていた時だった。
「おはよう」
洸の今一番聴きたい声が、背後から薄明光線のように浴びせられた。
そんな不意打ちにビクリと肩を弾ませながら、勢いよく振り返る。
「さ、咲耶! ど、どど、どうして!? 」
「何よそれ? 随分なご挨拶ね」
「いやいや! だってさ! てっきりあっちから来ると思って、姿が見えないから、来ないのかな~と思って、そしたら、急に現れるんだもん! 」
「休日に出かけることなんて稀だし、折角だから、あっちの河川敷の方から来たのよ」
「そ、そそ。そういうことね。びっくりしたよ~」
洸は、バクバクと高鳴る鼓動を抑えつつも、さっきまでの緊張が消え去っていた事に気づく。
予期せぬ展開のおかげで、緊張が塗り固められたようだ。
「ともかく。おはよう」
そして、ようやく挨拶を返せた所で、駅の方から歩み寄る、二つの影に気づく。
「お待たせ! うんうん! 咲耶さんも来てるね! 良かった!良かった! 」
神影は落ち着いたブラウンのスカートと、深緑色のニットを合わせた、大人っぽいコーデを披露しながら、笑みを浮かべる。
その隣には、ジーンズの裾をロールアップさせて、紺シャツのアウター、無地Tシャツを合わせた、眠たげな尚人の姿もある。
「わぁ! 二人ともお洒落さんだね! 」
そして、洸と咲耶の前に立つ神影は、爪先から顔を見渡して、目をキラキラと輝かせる。
その神影の言葉で、ようやく咲耶の全体を見渡した洸は、言葉を失い見惚れてしまう。
洸の目には、黒のロングワンピースが、艶やかな長い髪と映えて、とても妖艶で美しく映っていた。
「おはよう」
そんな咲耶の世辞にも、凛とした態度で返答する咲耶は、さながら、高嶺の花と呼ぶには、相応しいオーラを纏っている。
「それじゃあ、早速だけど、行こっか」
店を知っている神影が先頭で歩き出す、その斜め隣、将棋の銀ならば、相手の駒を取るには絶好の位置でついて歩く咲耶。
そして、その後ろに男二人が並び歩いていく。
「愛しの咲耶さん。あぁ。綺麗だ。その長い髪を食べてしまいたい。その全てを僕のものにしたい」
洸の隣を歩く尚人が、洸にだけ聞こえるボリュームで、勝手に洸の心の声をアフレコする。
「やめろ。そんな、変態じみた事、考えていないから」
「でも、ニアピンだろ? 」
「いや、ごめん。全然、ニアじゃない。すご~い田舎の、近所くらい、ニアじゃないから」
「そんなに? 駅から徒歩十分が、以外に遠い! ってくらいじゃね? 」
「僕、歩くの嫌いじゃないから、そんなに苦じゃないし、そんなの、感覚でしょ? 」
「そんなこといったら、田舎の近所だって、感覚の中の話でしかないだろ? 」
「まぁ、それもそうか」
と、何の中身もない話をしているうちに、四人は、お目当ての喫茶店へと辿りついていた。