ーーー 液晶の中の咲夜は、頬に涙を伝わせながらも、無垢に笑っている。

その姿のまま切り取られ静止した、久しぶりの笑顔も、洸の視界では、濁って見えなくなっていく。

その途端、喉が千切れそうなほどの叫びが、部室ないに響き渡る。

両手の拳を強くテーブルに打ちつけて、止めどなく溢れていく涙。

空白の頭の中には、咲夜との日々が、無情に流れ込んでくる。

息をするのも忘れてしまうくらい。声帯を捨ててしまいそうな程の叫び。

身体中の熱を沸騰させて、全身で咲夜の死を悼む洸。

自発的な涙ともらい泣きの狭間の、尚人と神影もまた、人目を気にすることなく、その目を赤く腫らす。

咲夜のいない現実を。咲夜から送られた言葉を。咲夜との短くも濃密な時間を。液晶に映し出された笑顔を。これからの日々を。これまでの日々を。

その全てを涙に溶かし込み、悲痛を謳っている。

千香もまた、静かに涙を流しながら、その苦しく、
切なく流れる時間に身を委ねていた。

十数分経った頃には、全員の涙は枯れ果てて、残された痛みと、それでも少し晴れやかになった気持ちと、遺された想いが四人に、この先の道を問いている。

「僕たちは………。生きてるんだね………。だから、こんなにも苦しくて。こんなにも哀しくて。これが、生きるって事なのかな? ううん。それだけじゃないよね。幸せと思える時間も、愛おしいと思える時間も、等しく、生きるということ。そう、咲ちゃんは、言いたかったのかもしれないね」

掠れ気味の声でも、言葉を紡ぐ洸。

「ん。だな。俺達は生きている。これからも、どれほどの時間を生きるか分からないけれど、立ち止まる時間は、勿体無いだけだよな」

尚人もまた、強く気持ちを新たにする。

「ありがとうか。うん。その言葉に恥じないように、咲夜ちゃんが、愛してくれた私達を続けていこう。咲夜ちゃんの大好きを、生き続けていこう」

神影は、ふっと柔らかく微笑んだ。

「もう、心配はいらねぇな。お前ら、強いな。誇らしいよ。教師として、本当に誇らしい」

千香は、自分を見上げる三人に、笑みを浮かべて応える。

まだ、液晶で笑う咲夜に、思い出の中の咲夜に、四人は改めて決意を強くするのであった。

ーーー その日の帰路。並んで歩いていた三人の中、洸が足をふと止めて、寒そうに聳える桜の木を見上げる。

少し歩を進めて、洸が立ち止まった事に気づき、二人も振り返る。

「桜って、短い時間だけ、綺麗に咲き誇って、呆気なく散ってしまって、情緒的な時間を彩って、それでも尚、人の心に残り続ける。人の命もそうなのかな。散り際にもドラマを見て、心と記憶に刻まれて、大切のまま残り続ける。咲ちゃんは、この世界では散ってしまったとしても、ずっと僕たちの中では、咲続ける。なんて、台詞じみてるかな?」

洸はいつか咲夜がそうしたように、桜の木を見上げ、手のひらで見えない花びらを握りしめる。

「なら、咲かせ続けようぜ。嵐だろうが、天変地異だろうがお構いなしでよ」

そうやって、いつもと変わらずニヤリと口角をあげた尚人の隣で、尚人に同意するかのように、強く頷いて、満面の笑みを咲かせる神影。

「うん!」

それに応えるようにして、同じように笑みを咲かせた洸は、二人を追うようにして歩き出した。

ーーーー ひらひらり 「完」