ーーー ありがとうの置き場。

この動画を観ているということは、私はもう、この世にはいないと言うことね。

なんて、よくある台詞からはじめてみるわ。

今が、コンテストが終わって直ぐといった所ね?

先生が約束を守ってくれているのならそうね。

さて、コンテストがどんな幕引きをしたのか、分からないけれど、こーくんの事だから、心配はないわね。

思えば、私が入学を決めてから、実際に入学して二年間。私は、逃げていたんだと思うわ。

昔から、普通ではなかった。周りの態度も、生活も、心も身体も、等身大ではなかった。

だからこそ、余命を越えて生き残って、普通に高校に通ってみたい。普通で、平凡な日常を過ごしてみたい。そう思った。思ったのに。

蓋を開けてみれば、周りの人は気を遣い、私は私で、深く関わりを持ってしまえば、きっと怖くなると思って、殻に閉じこもっていた。

誰もが幸せで、自分の時間の中で、精一杯、自分を生きているとばかり、その中に、私が入る余地は無い。そう思っていた。

でも、その日常は、いとも簡単に崩れ落ちた。

言の葉部。あの場所を知ってから私は、ようやっと理解したんだ。

誰もが自分を見せる事を怖がって、無神経にならないように気遣って、外側ばかりで付き合っている。

繕った仮面はいつしか、外せないほど頑丈になって、それでも、その仮面越しにも伝わる、その人の内側を知って、その仮面は繕ったものではなく、なりたい自分になるための、変身であった事。

そして、外側から固められた人間は、内側まで浸透して、いつしか本物になること。

思い通りにはいかない日々の中で、それでも尚、思い描く事は、最初からあきらめて、筆を下ろすこともしないよりも、何倍も有意義で、美しくて、醜くて、それが人間味と呼ぶものだって、知ることができた。

隠した言葉も、思いも全部、思うがまま口に出来るようになって、弱さも強さも等しく見せれるようになって、見せてくれる人達と出会って、見てくれる人に出会って、深く、今まで以上にもっと深く。思ったんだ。

生きたいって。

神様が本当にいるのなら意地悪ね。

どうでもいいなんて吐いて捨てた世界では、息をさせられ続け、ようやく生きたいと思った世界では、残酷で。

だから、もっと、もっと生きたい。生きていたい。みんなと他愛のない話をして、くだらない話をして、笑っていたい。そうやって、何の変哲もない日々を生きていたい。

分かってる。もう、そんな時間は程無いって。

だからーーー

そこで、咲夜は原稿から顔を上げて、涙袋に溜めた涙で頬に筋を作る。

ーーー 神影ちゃん。家族を大事に、自分も大事に、信じた道を生きてね。もっと、一緒に甘いもの。食べたかったなぁ。

尚人くん。いつも明るくて、周りを巻き込んで、みんなの忠臣にいる尚人くんは、とても輝いて見えていたよ。尚人くんは、尚人くん。唯一無二の代わりのいないただ一人だよ。

先生。先生の言葉通りになってしまいましたね。でも、ありがとうございます。こんな私を最後まで気にかけてくれて。先生は私の恩人で、最高の恩師です。

そして、こーくん。もう、我慢しなくていいよ。こーくんはもう充分に頑張ってきた。それは、私が、こーくん以上にわかってる。だから、もう我慢しないで。泣いていいんだよ。

みんな。本当に。本当にありがとう。生まれてきて良かった。生きていて良かった。大好きだよ