ーーー 洸が主張を終え、頭を下げると、それを合図、ホールを反響させる拍手が響き渡る。

その拍手を体に受けながら、ホッと胸を撫でおろしながら、舞台袖へと帰還する洸。

すっかりと軽くなった足取りで、向かう先には、クールに片方の口角をあげ、拍手で迎える千香の姿があった。

「お疲れ」

千香は、洸の頭を無造作に撫でて、立派に任を全うした洸を労う。

「届きましたかね。誰かしらには」

「どうだろうな? ただ、間違いなく、俺には届いたし、あいつらにも届いただろうな」

「そうですか。なら、及第点以上です」

洸は、自分の席へと着席すると、ふぅと小さく息を吐いた。

結果としては、最優秀賞は逃すものの、洸は金賞を獲得し、満足のいく結果で、コンテストは幕を下ろした。

「洸くん。ありがとう。本当にありがとう。あの子が居た証を残してくれて。本当にあの子は、最後まで幸せだったと思うわ。これほど、愛してくれると人達がいたのなら」

コンテストを終え、帰り際に涙を浮かべた陽子からその、金賞よりも価値のある言葉を受け取った洸は、やりきった様に笑みを浮かべた。

ーーーー その後、千香から部室に集まる様に言われた三人は、部室へとやって来ていた。

「何だろうな? 祝勝会でもするんかな? 何をもって勝ちか分からないけど」

洸よりも疲労の顔を覗かせている尚人は、背もたれに背中を預けている。

「まぁ、やるとしても、お疲れ様会ってところだろうね」

洸は途中で買った缶コーヒーを嗜みつつ、やっと訪れた安息に身を委ねる。

「わりぃ。待たせたな」

その時、ガタガタと引き戸を揺らしながら千香が現れる。

その手には、三人が淡く期待した、お疲れ様会のための、菓子や飲料はなく、その代わりに、透明なプラスチックのケースに入れられた、ディスクが握られていた。

千香はそのまま、普段は空き教室とは名ばかりの、物置の様に扱われていた部室に常備されていた、テレビとレコーダーを、ラックごと引きずりながら、三人の正面で止める。

「実はな、葉月に頼まれていた事があってな。今から、ソレを行う」

「咲ちゃんに? ですか? 」

「あぁ。まぁ、お前らはそのまま座って待ってろ」

そう言うと千香は、慣れた手付きで、持っていたディスクをレコーダーに挿入し、テレビの電源をつける。

そして、ディスクを読む込む事数秒、液晶に映し出された、その人物に三人は前のめりに姿勢を正す。

そこに映し出されていたのは、他でもない咲夜の姿。通い詰めな、病室、ベッドの上で起き上がり、原稿用紙を手にしている姿。

「よし、回ったぞ」

テレビのスピーカーから聴こえるその千香の声を合図に、咲夜は、手に持つ原稿に目を落とし読み上げる。