ーーー 緑葉もすっかりと、その終わりを彩りはじめ、風も体温を奪うくらいに冷たくなり、冬の訪れが聞こえてきそうな、それでいて澄んだ空が、まだ夏を取り戻そうとしているようにも感じられる季節。

いよいよ、青春の叫び(ブルーパトス)コンテスト本番。開会式から始まり、午前の部、午後の部と二部構成となる大会。

洸の出順は、最後の高校から遡り二校目、待ち時間が長い分、洸の緊張は、時間経過と共に膨らんでくる。

「おい。大丈夫か?」

「はい。でも、緊張しないと思っていたんですが、想像以上でした」

舞台袖に設置された代表者の待機場、顧問と代表者のみ立ち入りが可能で、尚人と神影は、客席に座りその時を待っている。

洸は、リハーサルでステージから見た光景を思い出し、大きく深呼吸をする。

リハーサル時は、照明も点いており、見渡せた客席も、コンテストが始まると、舞台上のみ照らされ、ステージ上からは、客席の様子は、ほぼ視認することはできない。

そして、独特の張り詰めた空気も相まって、洸は想像以上に、鼓動のテンポを速めていた。

「まぁ、なんだ。ここまで来たら、後はやるしかない訳だ。結果なんて、あってないような物だ。だから、もう、ぐだぐだ考える必要はねぇ。お前の全てをぶつけて来な」

千香は、洸の出番の直前。前の高校の代表者の主張が終わり、拍手で包まれた会場に飲まれそうな洸の背中を、強く叩く。

「は、はい! やってやります!」

その力強い後押しを受けた洸は、光と闇の境に立つ。

そして、場内には滑舌よく、通った声でその名前が響き渡る。

「続きまして、桜愁(おうしゅう)高校三年、一柳 洸君。題、さよならの終着点(もくてきち)

洸は一度大きく深呼吸をして、別世界へ続いているような光へと足を踏み出す。

ステージ上に洸の姿が見えると、客席から一斉に大きな拍手が送られ、洸はその乾いた音に飲み込まれぬように、マイクの前に立ち目を閉じる。

そして、一拍置いて目を開き、客席に向かい一礼する。

すると、再び大きな拍手が送られる。顔も見えない人達からのかしわ手の中に、尚人、神影、千香、自分の両親と、更に今日は咲夜の両親。

その音が重なって届いた洸は、意を決めて一歩前に出る。そして心の中で一言呟いた。

「行くよ。咲ちゃん」