ーーー 一週間後。葬儀など慌ただしく過ぎる日々の中で、僅かではあるが、三人の心に隙間が生まれていた。
部室で、それぞれが勉強や漫画、原稿と向き合い、自分以外の鼓動を確認するかのように、ぽつりぽつりと会話を交わしながら、一つ欠けた日常を何とか紡いでいた。
コンテストまではもう二週間を切り、既に準備を整えた洸にとっては、その分余裕があり、本来、その余地に入り込むべき緊張感もなく、思考を別に向けることが出来ていた。
「噛まないかなぁ」
洸は原稿を眺めながら、そう小さく溢す。
「そん時は、スタッフ笑いしてやるから安心しろ」
「本番の緊張感の中で、それが出来たら尊敬するよ」
洸はそう言いつつ、黙読を重ねる。
「もう、あっという間に本番だね。何か、私の方が緊張してきたよ。子を見守る、母親の気分?」
「いや、洸に母性を抱いてどうすんだよ。まぁ、童顔ではあるし、中性的で、可愛らしい顔はしているけど………ふざんけんな。うらやましい」
そんな会話も、それほど集中していな洸の耳には届いている。
「確かに、もっと小さい頃は、咲ちゃんや、両親の、着せ替え人形になった事もあったなぁ。魔法少女みたいな格好もさせられた事あったし」
「おい。何だよそれ。ちょっと歪みそう」
「何が!?」
洸は鳥肌を立てさせながら、一瞬だけ当時を浮かべる。
「ねぇ。洸くん。一つだけ聞きたい事があるの。もちろん、答えられないのならそれでいいから」
「うん」
洸は神影に先を促す。
「言ってたよね。この前、咲夜ちゃんと約束したって。その約束って?」
神影は探るような視線を向けて、自分の言葉で、洸が不快になっていない様子を確認して安堵する。
「うん。隠してたわけじゃないしね。僕はね、昔、凄く泣き虫だったんだよ。それで、咲ちゃんにも、咲ちゃんの両親にも、僕の親にも迷惑をかけて、心配かけて。そんな子供だった。そんな時にね、咲ちゃんが検査入院することになって、僕は不安で押しつぶされそうになって、泣いちゃった事があった。誰よりも不安な咲ちゃんの隣で。そんな僕を、僕なんかよりもよっぽど強い咲ちゃんが、励ましてくれた。慰めてくれた。その時に思ったんだ。僕が、こんなんじゃいけないって。強くなろうって。その結果が、泣かない。少なくとも、みんなの前では泣かない。そんな僕が完成したんだ」
声色も表情も、寂しげに、それでいて柔らかく、思い出の匂いを手繰るようにして、洸は話し続ける。
「そうやって、抑え込んできた僕に、咲ちゃんは気づいていたんだろうね。コンテストが終わったら、もうその荷物を下ろして、我慢しないで泣いてって、お願いされちゃって。咲ちゃんの笑顔を見たい。その願いを叶えて貰ったから、僕も、コンテストを区切りに、自分の感情を、気持ちを、無理に抑え込むのをやめようと思った。これが、咲ちゃんとの約束」
ここ数ヶ月の、仲睦まじげな二人を浮かべながら、開け放たれた病室の窓から流れ込む、涼風を頬で受け止めるかのように、洸の言葉を受け止める神影と尚人。
「じゃあ、やっぱり。噛んだら、笑ってやるよ」
「おい!なんで、そうなる! 」
そんな尚人の砕けた返答のお陰もあり、久しく触れて来れなかった、言の葉部らしい華やいだムードが、部室に流れていた。
部室で、それぞれが勉強や漫画、原稿と向き合い、自分以外の鼓動を確認するかのように、ぽつりぽつりと会話を交わしながら、一つ欠けた日常を何とか紡いでいた。
コンテストまではもう二週間を切り、既に準備を整えた洸にとっては、その分余裕があり、本来、その余地に入り込むべき緊張感もなく、思考を別に向けることが出来ていた。
「噛まないかなぁ」
洸は原稿を眺めながら、そう小さく溢す。
「そん時は、スタッフ笑いしてやるから安心しろ」
「本番の緊張感の中で、それが出来たら尊敬するよ」
洸はそう言いつつ、黙読を重ねる。
「もう、あっという間に本番だね。何か、私の方が緊張してきたよ。子を見守る、母親の気分?」
「いや、洸に母性を抱いてどうすんだよ。まぁ、童顔ではあるし、中性的で、可愛らしい顔はしているけど………ふざんけんな。うらやましい」
そんな会話も、それほど集中していな洸の耳には届いている。
「確かに、もっと小さい頃は、咲ちゃんや、両親の、着せ替え人形になった事もあったなぁ。魔法少女みたいな格好もさせられた事あったし」
「おい。何だよそれ。ちょっと歪みそう」
「何が!?」
洸は鳥肌を立てさせながら、一瞬だけ当時を浮かべる。
「ねぇ。洸くん。一つだけ聞きたい事があるの。もちろん、答えられないのならそれでいいから」
「うん」
洸は神影に先を促す。
「言ってたよね。この前、咲夜ちゃんと約束したって。その約束って?」
神影は探るような視線を向けて、自分の言葉で、洸が不快になっていない様子を確認して安堵する。
「うん。隠してたわけじゃないしね。僕はね、昔、凄く泣き虫だったんだよ。それで、咲ちゃんにも、咲ちゃんの両親にも、僕の親にも迷惑をかけて、心配かけて。そんな子供だった。そんな時にね、咲ちゃんが検査入院することになって、僕は不安で押しつぶされそうになって、泣いちゃった事があった。誰よりも不安な咲ちゃんの隣で。そんな僕を、僕なんかよりもよっぽど強い咲ちゃんが、励ましてくれた。慰めてくれた。その時に思ったんだ。僕が、こんなんじゃいけないって。強くなろうって。その結果が、泣かない。少なくとも、みんなの前では泣かない。そんな僕が完成したんだ」
声色も表情も、寂しげに、それでいて柔らかく、思い出の匂いを手繰るようにして、洸は話し続ける。
「そうやって、抑え込んできた僕に、咲ちゃんは気づいていたんだろうね。コンテストが終わったら、もうその荷物を下ろして、我慢しないで泣いてって、お願いされちゃって。咲ちゃんの笑顔を見たい。その願いを叶えて貰ったから、僕も、コンテストを区切りに、自分の感情を、気持ちを、無理に抑え込むのをやめようと思った。これが、咲ちゃんとの約束」
ここ数ヶ月の、仲睦まじげな二人を浮かべながら、開け放たれた病室の窓から流れ込む、涼風を頬で受け止めるかのように、洸の言葉を受け止める神影と尚人。
「じゃあ、やっぱり。噛んだら、笑ってやるよ」
「おい!なんで、そうなる! 」
そんな尚人の砕けた返答のお陰もあり、久しく触れて来れなかった、言の葉部らしい華やいだムードが、部室に流れていた。