ーーー 1週間が過ぎる。校庭の桜は、見る影もなくなりはじめ、春はゆったりとした時間の中で、流されるように歩みを進めている。
1週間前まで空き教室だった場所は、今では「言の葉部」の部室として機能していた。
言の葉部の名付け親は、神影であり、数ヶ月限りの特設部だから適当で、という建前で付けられた名前だが、神影はどうやらお気に入りらしく、部室のドアに掲げられたプレートは、可愛くデコレーションされた神影のお手製だった。
3人は、バックナンバーを読み漁りながら、小論文の方向性を探っていた。
「もうさ、少しだけ変えて、パクっちまえば良くね? 」
椅子の後ろ足だけでバランスをとりながら、気だるげに、紙パックのカフェオレをストローで吸い込む尚人。
「あんたはいいでしょうけど、私は内申を下げたくないの、あんたとは違って」
「何で2回も言ったん? 俺、こう見えて、先生からも愛されてるからな」
「それは内申とは関係ない。そんなんで、簡単には進学できるなら、人格が崩壊するくらい、愛想振り撒いてやるわよ」
「やめろよ。俺に憧れんなって。人には、その人にしかない、才能があるってことよ」
「何で私が慰められてるわけ? あんたに憧れるとしたら、その、ポジティブな思考だけね」
「ポジティブ? 俺はな、とっても繊細なんだよ。とても、純朴な男の子なんだ。なぁ? 洸? 」
尚人は、心ここにあらずな様子で、バックナンバーと、入り口を交互に見やる洸に問う。
「え? あ、あ、うん。そうだね」
そんな空返事と、落ち着かない様子から、尚人は勘繰っていた。
「そんなにちらちらしてても、愛しの人は、来ないと思うぞ? てかさ、そんなに気になるのなら、誘ってくればいいじゃん」
「そうなんだけどさ。無理強いをするのは………。咲耶には、咲耶の考えがあるんだし」
「ほ~ん。愛しい人は、否定しないと」
「ん? 何か言った? ごめん。聞き逃してたのかも」
「いいや。別に~」
そう悪戯っ子のように口角を上げる尚人。その隣で真面目に、バックナンバーに目を通していた神影にも、その会話は届いていたらしく、柔らかく微笑む。
「でも。確かに、女の子が私一人なのは、ちょっと、いや、かなり寂しいかも。だからさ、機会があったら、声だけはかけてみたらどうかな? お願いするね。部長さん」
「う、うん。善処はしてみるけど………って! 部長!? いつから、僕が部長になったんだよ! 」
「申請する時に、出して置いたよ。部長があなたで、副部長が、神影さん。書記に尚人。私は、色々と掛け持ちになっちゃうから、そもそも、役職にはつけないし。これがベストだと思うけど」
あっけらかんと言い放つ神影に、納得のいかない洸。
「それだったら! 部長は、尚でも………」
洸はそこで、自分が置かれている立場を理解する。
「そう。そう言うこと。尚人に任せるには、さすがに荷が重すぎる。かといって、活動に消極的な咲耶さんには、押し付けられないでしょ? つまり、洸くん。あなたしかいないの。あ、でも、消去法じゃないからね。そう言うリーダー的な立場、洸くんならこなせそうだし」
ご丁寧にフォロー混じりの説明に、渋々と了承するしかない洸。
「あの~、さらっと、俺、無能呼ばわりされてない? 酷くない? 泣くよ? 俺だって、泣くよ? 」
「わかった。部長は僕でいいよ。咲耶の事も。本当は、一緒に出来たらいいなって、思っていたから。むしろ、誘う言い訳が出来て、良かったまであるからね」
「うん! 宜しく!部長さん!」
洸と神影は、視線を交わらせ、意思を共有する。
「あの~、俺、見えてない? 俺もいるんですが~。は! もしかして! 文字通り、幽霊部員って事!! 」
「うるさい」
「すんません」
神影の鋭い視線と一喝により、騒がしかった部室に、再び静寂が訪れるのであった。
1週間前まで空き教室だった場所は、今では「言の葉部」の部室として機能していた。
言の葉部の名付け親は、神影であり、数ヶ月限りの特設部だから適当で、という建前で付けられた名前だが、神影はどうやらお気に入りらしく、部室のドアに掲げられたプレートは、可愛くデコレーションされた神影のお手製だった。
3人は、バックナンバーを読み漁りながら、小論文の方向性を探っていた。
「もうさ、少しだけ変えて、パクっちまえば良くね? 」
椅子の後ろ足だけでバランスをとりながら、気だるげに、紙パックのカフェオレをストローで吸い込む尚人。
「あんたはいいでしょうけど、私は内申を下げたくないの、あんたとは違って」
「何で2回も言ったん? 俺、こう見えて、先生からも愛されてるからな」
「それは内申とは関係ない。そんなんで、簡単には進学できるなら、人格が崩壊するくらい、愛想振り撒いてやるわよ」
「やめろよ。俺に憧れんなって。人には、その人にしかない、才能があるってことよ」
「何で私が慰められてるわけ? あんたに憧れるとしたら、その、ポジティブな思考だけね」
「ポジティブ? 俺はな、とっても繊細なんだよ。とても、純朴な男の子なんだ。なぁ? 洸? 」
尚人は、心ここにあらずな様子で、バックナンバーと、入り口を交互に見やる洸に問う。
「え? あ、あ、うん。そうだね」
そんな空返事と、落ち着かない様子から、尚人は勘繰っていた。
「そんなにちらちらしてても、愛しの人は、来ないと思うぞ? てかさ、そんなに気になるのなら、誘ってくればいいじゃん」
「そうなんだけどさ。無理強いをするのは………。咲耶には、咲耶の考えがあるんだし」
「ほ~ん。愛しい人は、否定しないと」
「ん? 何か言った? ごめん。聞き逃してたのかも」
「いいや。別に~」
そう悪戯っ子のように口角を上げる尚人。その隣で真面目に、バックナンバーに目を通していた神影にも、その会話は届いていたらしく、柔らかく微笑む。
「でも。確かに、女の子が私一人なのは、ちょっと、いや、かなり寂しいかも。だからさ、機会があったら、声だけはかけてみたらどうかな? お願いするね。部長さん」
「う、うん。善処はしてみるけど………って! 部長!? いつから、僕が部長になったんだよ! 」
「申請する時に、出して置いたよ。部長があなたで、副部長が、神影さん。書記に尚人。私は、色々と掛け持ちになっちゃうから、そもそも、役職にはつけないし。これがベストだと思うけど」
あっけらかんと言い放つ神影に、納得のいかない洸。
「それだったら! 部長は、尚でも………」
洸はそこで、自分が置かれている立場を理解する。
「そう。そう言うこと。尚人に任せるには、さすがに荷が重すぎる。かといって、活動に消極的な咲耶さんには、押し付けられないでしょ? つまり、洸くん。あなたしかいないの。あ、でも、消去法じゃないからね。そう言うリーダー的な立場、洸くんならこなせそうだし」
ご丁寧にフォロー混じりの説明に、渋々と了承するしかない洸。
「あの~、さらっと、俺、無能呼ばわりされてない? 酷くない? 泣くよ? 俺だって、泣くよ? 」
「わかった。部長は僕でいいよ。咲耶の事も。本当は、一緒に出来たらいいなって、思っていたから。むしろ、誘う言い訳が出来て、良かったまであるからね」
「うん! 宜しく!部長さん!」
洸と神影は、視線を交わらせ、意思を共有する。
「あの~、俺、見えてない? 俺もいるんですが~。は! もしかして! 文字通り、幽霊部員って事!! 」
「うるさい」
「すんません」
神影の鋭い視線と一喝により、騒がしかった部室に、再び静寂が訪れるのであった。