ーーー3日後の月曜日。

「というわけで、もうエントリーは済んでるから、今更、尻込みするんじゃねぇぞ」

千香のその言葉をきっかけで、洸の中で、コンテストという舞台が、いよいよ現実味を帯びて浮き上がる。

「まぁ、コンテストって言っても、全二十校の生徒たちが、各々、言いたい事を言って、何やかんや賞を貰って、お終い。それだけだ。気軽に臨むんだな」

そう飄々と言い残して、千香は部室から去っていく。

それを千香らしい励ましだと捉えた洸は、少し肩にのしかかった重荷を下ろした。

「あ、それと」

千香が去ってから、数秒、再び廊下から顔を覗かせる千香。

「今日は、検査やら何やらあるらしいから、面会は無しな。後は、俺も予定があるから、問題だけは起こさないように。んじゃ」

そう言い残し、千香はひらひらと、手を振って消えていく。

「検査? んなの、聞いてなかったけどな〜。まぁ、今日は、行く予定は無かったからいいけど」

尚人は、椅子の後ろ足でバランスを取りながら、紙パックのバナナミルクを嗜んでいる。

「なんかさ。広くなったよね。たった一人居ないだけなのに」

神影は、部内を一瞥して、アンニュイな笑みを浮かべる。

「まぁ、俺達は、少数精鋭って感じだったからな。一人一人の存在感っていうの? だから、一人とはいえ、その穴は大きさは、計り知れないってやつなのかもな」

尚人は、一人サーカスをしながら、横目で空いた席をちらりと見やる。

「なんか、嬉しいな。二人がそう思ってくれてるの。ほら、咲ちゃんて、特殊だからさ。学校でも、あまり馴染めてなかったでしょ? まぁ、咲夜から離れていたというのもあるけれど、だからさ、こうして受け入れて貰えてるっていう事が、それだけで、この部の存在意義になっていると思うよ」

菩薩のように柔らかい微笑みで言い放つ洸。

「お前、保護者みたいなこと言うよな。たまに」

「うんうん。分かる」

神影が尚人の言葉に同意するように、二度頷く。

「嘘? そんな母性丸出しだった?」

「いや、母性とは違うんだよなぁ。なんというか、咲夜に対して甘すぎる。凍ったスポーツドリンクの、最初の一口くらい甘すぎる」

「あぁ。あれは確かに甘いよね。ジャリジャリのシャーベット状になった瞬間が、冷凍スポーツドリンクの本気って感じするよね」

「おい。話を逸らすな」

「いや、尚が最初に脱線させたんだろ? 気の利いた事を言おうとした結果」

「そう思うなら流せよ!」

咲夜が居なくとも変わらない。そんな軽快な日常が言の葉部にはまだ残っていた。

ーーー 咲夜の病室。いち早く退勤をした千香が、窓縁に腰を預けて立っている。

「それで? 俺に何か用なのか? 」

千香が退勤した理由は、昼間に、咲夜からの呼び出しを受けていたからであった。

「はい。すみません。忙しい中、来ていただいて。その、みんなには?」

「ああ。適当に理由をつけといたから、今日は来ないだろうな」

「そうですか」

咲夜はホッと胸を撫でおろす。

「それで? 一体何なんだ?」

「はい。実は。先生にお願いがあるんです」

「お願い?」