ーーー その日は、青空が世界を覆ってしまいそうなほど、何処までも青が広がる晴天で、風も生ぬるく、過ごしやすい気候だった。
土曜日。十三時。コンテストへの目処が立って、後は、スムーズに原稿を読めるように、復唱を重ねる時間となっていたが、まだ時間には余裕がある事と、コンテスト出場する咲夜以外の三人にとっては、ただ登校をして、怠惰な時間を過ごすだけの時期となっていた。
今日も例によって、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
しかし、いつもと違う景色がひとつだけ。そこに、咲夜の姿が無いということだ。
これまで時間に遅れる事が無かったどころか、本格的に活動を開始してからは、皆勤賞であったため、三人の中では、言いようの無い不安が押し寄せていた。
洸は落ち着きなく、スマートフォンの液晶に何度も目を落として、連絡の有無と、現時刻を確認している。
「ちょっと、連絡してみろよ。そんなにソワソワされると、こっちまで、落ち着けなくなるだろう?」
尚人はいつもより格段に早く漫画のページを進めながら、洸を横目に見ている。
「う、うん」
洸は、メッセージアプリを立ち上げて、咲夜の個人トークルームを開く。無料通話も可能な、老若男女に絶大に支持をされているアプリで、洸にとって、その咲夜の景色を切り取ったアイコンは、一番最初に友達追加した相手という事もあり、特別なものだった。
洸は、通話ボタンを押す。スピーカー越しから、デフォルトの呼出音が鳴り響く。
普段なら、何の気無しで聞いていたその呼出音も、今の洸に、いつも以上に無機質で冷たく思えた。
数秒、十数秒経っても、その呼出音は鳴り止むことはない。そうしているうちに、アプリの設定上、暫く応答の無かったため、自動的に通話は切断されて、トーク画面に不在着信とだけ、これまた冷たく表示された。
「駄目だ。出ないや」
まるで親に捨てられた仔猫のように、うるうると目を潤ませる洸。
「ま、まぁ。きっと、急用が出来たのよ! そのうち、ケロッとして、折り返しがかかってくるわよ!」
そんな洸を慰めるように放った神影の言葉は、他でもない、自分に向けた言葉でもあった。
三人の中では、一般的なら考えられないであろう可能性が、高い確率として浮かび上がっていた。
「咲夜ってよ。余命宣告から、どれくらい生き続けてるんだ?」
尚人がついには漫画を開いたまま、伏し目になり、小さく躊躇うに溢した。
「高校生には、なれないだろうって、言われてた」
その陰気に釣られるようにして、洸もか細く返答する。
「もう2年半以上って事か………」
尚人のその言葉だけで、痛いほど他の二人にも心意が理解できた。
「ほ、ほら! まだ、分からないんだから! 勝手にこんなに陰鬱になってたら、咲夜ちゃんにも失礼でしょ!」
空元気。今の神影にこれ以上似合う言葉はないであろう。
「とりあえず、もう少し待ってみよう。それで、また電話をかけてみて、それでも駄目なら、一旦、家に行ってみよう」
洸は冷静さを取り戻すように、これからのプランを音として残して、自習を始める。
神影も尚人も、それぞれの作業に戻るも、どこか上の空で、自習中の洸と神影のノートは、一向に埋まる気配がなかった。
それから、一時間という時間が流れて、いよいよ洸は、再び電話をかけようと、スマートフォンに手を伸ばした。
その時だった。廊下の方から、勢いよく部室へと近づいてくる、パタパタといった乾いた音が聞こえてきた。
三人は一瞬、咲夜の足音かと扉に目を向けるも、咲夜の性格を知る三人は直ぐに、違うものだと認識した。
そして、その足音が部室の前で止まるとほぼ同時に、勢いよく扉が開かれて、息の切れた千香の姿を顕にした。
その姿を見ただけで、三人の浮かべていた可能性が、可能性ではなくなっていた。
「ハァ葉月が、倒れて、ハァハァ、病院に、運ばれ、ハァハァ………」
息も絶え絶えに放たれたその千香の言葉が、三人の脳内で、蜷局を巻いていた。
土曜日。十三時。コンテストへの目処が立って、後は、スムーズに原稿を読めるように、復唱を重ねる時間となっていたが、まだ時間には余裕がある事と、コンテスト出場する咲夜以外の三人にとっては、ただ登校をして、怠惰な時間を過ごすだけの時期となっていた。
今日も例によって、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
しかし、いつもと違う景色がひとつだけ。そこに、咲夜の姿が無いということだ。
これまで時間に遅れる事が無かったどころか、本格的に活動を開始してからは、皆勤賞であったため、三人の中では、言いようの無い不安が押し寄せていた。
洸は落ち着きなく、スマートフォンの液晶に何度も目を落として、連絡の有無と、現時刻を確認している。
「ちょっと、連絡してみろよ。そんなにソワソワされると、こっちまで、落ち着けなくなるだろう?」
尚人はいつもより格段に早く漫画のページを進めながら、洸を横目に見ている。
「う、うん」
洸は、メッセージアプリを立ち上げて、咲夜の個人トークルームを開く。無料通話も可能な、老若男女に絶大に支持をされているアプリで、洸にとって、その咲夜の景色を切り取ったアイコンは、一番最初に友達追加した相手という事もあり、特別なものだった。
洸は、通話ボタンを押す。スピーカー越しから、デフォルトの呼出音が鳴り響く。
普段なら、何の気無しで聞いていたその呼出音も、今の洸に、いつも以上に無機質で冷たく思えた。
数秒、十数秒経っても、その呼出音は鳴り止むことはない。そうしているうちに、アプリの設定上、暫く応答の無かったため、自動的に通話は切断されて、トーク画面に不在着信とだけ、これまた冷たく表示された。
「駄目だ。出ないや」
まるで親に捨てられた仔猫のように、うるうると目を潤ませる洸。
「ま、まぁ。きっと、急用が出来たのよ! そのうち、ケロッとして、折り返しがかかってくるわよ!」
そんな洸を慰めるように放った神影の言葉は、他でもない、自分に向けた言葉でもあった。
三人の中では、一般的なら考えられないであろう可能性が、高い確率として浮かび上がっていた。
「咲夜ってよ。余命宣告から、どれくらい生き続けてるんだ?」
尚人がついには漫画を開いたまま、伏し目になり、小さく躊躇うに溢した。
「高校生には、なれないだろうって、言われてた」
その陰気に釣られるようにして、洸もか細く返答する。
「もう2年半以上って事か………」
尚人のその言葉だけで、痛いほど他の二人にも心意が理解できた。
「ほ、ほら! まだ、分からないんだから! 勝手にこんなに陰鬱になってたら、咲夜ちゃんにも失礼でしょ!」
空元気。今の神影にこれ以上似合う言葉はないであろう。
「とりあえず、もう少し待ってみよう。それで、また電話をかけてみて、それでも駄目なら、一旦、家に行ってみよう」
洸は冷静さを取り戻すように、これからのプランを音として残して、自習を始める。
神影も尚人も、それぞれの作業に戻るも、どこか上の空で、自習中の洸と神影のノートは、一向に埋まる気配がなかった。
それから、一時間という時間が流れて、いよいよ洸は、再び電話をかけようと、スマートフォンに手を伸ばした。
その時だった。廊下の方から、勢いよく部室へと近づいてくる、パタパタといった乾いた音が聞こえてきた。
三人は一瞬、咲夜の足音かと扉に目を向けるも、咲夜の性格を知る三人は直ぐに、違うものだと認識した。
そして、その足音が部室の前で止まるとほぼ同時に、勢いよく扉が開かれて、息の切れた千香の姿を顕にした。
その姿を見ただけで、三人の浮かべていた可能性が、可能性ではなくなっていた。
「ハァ葉月が、倒れて、ハァハァ、病院に、運ばれ、ハァハァ………」
息も絶え絶えに放たれたその千香の言葉が、三人の脳内で、蜷局を巻いていた。