「そういえばさ、幼馴染ってどんな感じなん? 」

神影を除く三人が、モンブランを食べ終えた頃、それぞれがドリンクのお代りをオーダーし、机に並べられ、一段落ついたところで、尚人が不意にそんな話題を提供する。

「何よ急に? 」

「いや、俺には、そういう関係は皆無だったからさ、どんな感じなのかなぁってよ」

「どんな感じって、そんな抽象的に言われても困るわね」

咲夜は、ちらりの洸を見やる。後は、洸に押し付ける。そういう眼差しだった。

「う〜ん。どうなんだろう? なんだか、普通になっていたからさ。今更、口で説明するのって、難しいんだよね。あとは、改まると、何だか面映い」

洸は、咲夜に視線を返すと、一度視線の交わった咲夜は、小さく二、三度頷く。

「いやいや、ほらほら、そういうところ! その、視線だけで、以心伝心できますよ〜って感じ! なんなん!」

何故かちょっとキレ気味の尚人は他所に、涼し気にコーヒーを啜る洸。

「でも、それは、普通ではないよ。私にも幼馴染はいたけれど、中学まではずっと一緒だったし、今は、引っ越しちゃったけど、それでも濃い時間を過ごしてきた幼馴染とはいえ、話さなくても分かるなんて、おしどり夫婦のようには行かなかったよ。しかも、私の場合、同性同士でね」

神影は、惜しみつつモンブランを完食して、三人の会話に割り込む。

「そんな事言われても………う〜ん? 何となくとしか言えないし………」

洸は、詰められて言葉を濁す。

「まぁ、私達の場合。私達というか、私の事だけど。ちょっと特殊な人間だから、一般的な幼馴染よりも、気を遣いあっていたんだと思うわ。気を遣いすぎて、相手をよく理解しようとした、ただ、それだけよ」

そんな洸に助け舟を出すかのように、冷静な意見を述べる咲夜。

「なるほどなぁ。それは一理あるかもな」

尚人はその咲夜の意見に納得したようだ。

「それで? そういう事にはならなかったのか?」

「そういう事?」

そこから、話を次のステップへ進めた尚人の言葉に、オウム返しをする洸。

「だから、付き合ったりしなかったのかって」

「いやいや! そんなそんな! 無かった無かった!」

尚人の追求に、分かりやすく動揺して、同じ言葉を繰り返す洸。

「ふ〜ん。満更ではないと」

尚人はニヤリと悪戯に微笑む。

「尚。いい加減にしないと、怒るよ、僕だって」

洸は少し声色を低めて怒りを表現するも、威圧感の「い」の文字も滲み出ていない。

「はいはい。怖い怖い。なるほどね。よ〜く分かったわ」

まるで子供をあやすような態度に、洸は不満げに眉をひそめる。

「あまり、洸をいじめてあげないで。言ったでしょ? 私達は少し、特殊な関係なんだって。それが答えよ」

咲夜は、お代りをしたストレートティーを一気に飲み干す。

尚人は、その咲夜の心意を、全て読み取ることはできずに、腑に落ちない様子であったが、これ以上の進展が見込めない様子がはっきりと滲む、咲夜のクールな表情に、それ以上踏み込む事はなかった。

結局、咲夜に助けられる形となった洸は、ブラックコーヒーに映る自分を暫く見下ろした後、その自分ごと飲み込むようにして、コーヒーを呷った。