ーーー「もうすぐで完成する!?」
9月の折り返し、部室で神影がそう声を上げた。
何度も改稿を繰り返してきた原稿が、ようやく完成する目処がついたと、咲夜からの報告を受けたからだ。
「とりあえず一安心ってところだね。よく頑張りました!」
洸は、神影の頑張りを労うようにサムズアップをしてみせる。
「まぁ、出来栄えがどうなのかは、私には分からないけど。伝えたい言葉は、簡潔に書けたと思うわ」
咲夜は、残り締めくくりの部分だけ空いた原稿を、感慨深そうに眺めている。
「じゃあさ、ちょっと早いけど、原稿完成を祝して、後は、コンテストに向けて、応援の意味もこえて、あそこに寄って行こうぜ!」
通常営業だった尚人は、何度も読み返しているため、栞を必要としない漫画本をパタンと閉じると、そう提案をする。
ここでいうあそことは、言の葉部発足直後に、親睦会を開いた喫茶店で、すっかり四人の馴染みとなっていた。
休日、打ち合わせをせずとも、ふらりと立寄れば、誰かしら滞在しているくらいには、通い詰めていた。
「そうだね! 行こう! 行こう! 今日は、もう部活終了!! で、いいよね? 部長さん!」
神影もワクワクと心を浮つかせている。数日前から新商品の提供が始まっており、神影はまだ、その味を堪能していなかったために、それに有りつける機会に巡り会えたというのがひとつの理由だった。
「そうだね。咲夜もそれでいい?」
「ええ」
全員の意見が一致したため、四人は足早に部室を後にした。
ーーー 偶然にも、初めて来店した時と同じ席に通される四人。
その途中、すっかり顔を覚えられたマスターに、「いらっしゃい。今日は、四人かい。ゆっくりしていきな」
と渋みのある声で歓迎される。
「マスターこんにちは。えっと、いつものでいいよね?」
神影が三人に確認を取り、三人が頷く。
「じゃあ、いつものでお願いします! あ、あと、さつま芋のモンブランも四人分追加で!」
そして、神影が代表して馴れた様子で、通りすがりに注文を済ませる。
四人掛けのテーブルに、男女に別れて腰を下ろす。
「いやぁ〜、楽しみだなぁ〜」
神影は、メニューを開いて、新商品のさつま芋のモンブランの写真を眺めてご満悦だ。
「それにしても、俺、憧れてたんだよ。所謂、常連ってやつ? いつもので、オーダーが通っちまうような」
「それは、僕も分かるなぁ。でも、巡り合わせって凄いよね。だってきっと、言の葉部が無かったら、ここに来ようとは、思わなかったもん」
洸は、そう遠くない過去に思い馳せる。
「最初はどうなるかと思ったけど、ここまで来ることができたんだね〜」
「いや部長さん、回想はまだ早いだろ」
「だね。変な満足感が溢れてきちゃって」
「まぁ、気持ちはわかるけどよ」
そんな洸と尚人の会話のピリオドを伺っていたかのように、ウエイトレスがドリンクを運んでくる。
それぞれが代わり映えのない味を堪能する。
そうしているうちに、お目当てのさつま芋のモンブランが運ばれてくる。
待ってましたとばかりに、すぐにフォークを手に取り、側面を掬う神影。
濃い黄色が秋の幸せを伝え、指先の重みに期待を込めて、口の中へ運ぶ。
「んん〜!!」
モンブランが舌についた瞬間、そんな唸りを上げる。
「めちゃくちゃ美味しい! 甘さのバランスも良くて、さつま芋の優しさが、これでもかって詰まっていて、モンブランになっているから、舌触りよく溶けていくよ!」
そう表情に至福を写した神影の食レポを聞き終えて、三人もモンブランにフォークを通す。
「あら。本当に、美味しい」
「でしょ! でしょ!」
咲夜もまたその味が気に入ったらしく、一口一口を大事に堪能している。
一方の尚人は、僅か数口で、あっという間にモンブランを完食してしまう。
「ふ〜、これは定番になりそうだな〜」
「あんた、食うの早すぎじゃない? もっと味わえばいいのに」
「俺はな、うまいと思ったものは、手が止まらなくなる主義なんだよ。俺のこのスピードは、美味しさと比例しているということな!」
「ふ〜ん。なんか勿体無いな〜」
そういう神影は、ちびちびとフォークを動かしている。
「お前こそ、そんなちびちびしてて、味なんてわかるのか?」
「当たり前でしょ? この繊細の味を知るのには、これくらいがベストなの!」
「そんなもんかね〜? な? 洸?」
尚人は、コーヒーカップを傾けながら、隣の洸に視線を外す。
洸はというと、適度な量を口に運び、口に残る甘さを緩和させるように、ブラックコーヒーを一口という動作を繰り返していた。
「まぁ、人それぞれだよね〜」
そして、その時間を大切にするように、尚人への返答は、そんな簡易的なものだった。
「なんか、お前………丁度いいな……」
尚人と神影の間を潜るような、洸のペースを、尚人はそう称した。
「昔からよ。洸は昔から、容量が良いというか、最適解を見つけるのが上手なのよ。良くも悪くもね」
最後の一口を残して、ストレートティーで喉を潤していた咲夜は、昔馴染の観点からそう結論づける。
9月の折り返し、部室で神影がそう声を上げた。
何度も改稿を繰り返してきた原稿が、ようやく完成する目処がついたと、咲夜からの報告を受けたからだ。
「とりあえず一安心ってところだね。よく頑張りました!」
洸は、神影の頑張りを労うようにサムズアップをしてみせる。
「まぁ、出来栄えがどうなのかは、私には分からないけど。伝えたい言葉は、簡潔に書けたと思うわ」
咲夜は、残り締めくくりの部分だけ空いた原稿を、感慨深そうに眺めている。
「じゃあさ、ちょっと早いけど、原稿完成を祝して、後は、コンテストに向けて、応援の意味もこえて、あそこに寄って行こうぜ!」
通常営業だった尚人は、何度も読み返しているため、栞を必要としない漫画本をパタンと閉じると、そう提案をする。
ここでいうあそことは、言の葉部発足直後に、親睦会を開いた喫茶店で、すっかり四人の馴染みとなっていた。
休日、打ち合わせをせずとも、ふらりと立寄れば、誰かしら滞在しているくらいには、通い詰めていた。
「そうだね! 行こう! 行こう! 今日は、もう部活終了!! で、いいよね? 部長さん!」
神影もワクワクと心を浮つかせている。数日前から新商品の提供が始まっており、神影はまだ、その味を堪能していなかったために、それに有りつける機会に巡り会えたというのがひとつの理由だった。
「そうだね。咲夜もそれでいい?」
「ええ」
全員の意見が一致したため、四人は足早に部室を後にした。
ーーー 偶然にも、初めて来店した時と同じ席に通される四人。
その途中、すっかり顔を覚えられたマスターに、「いらっしゃい。今日は、四人かい。ゆっくりしていきな」
と渋みのある声で歓迎される。
「マスターこんにちは。えっと、いつものでいいよね?」
神影が三人に確認を取り、三人が頷く。
「じゃあ、いつものでお願いします! あ、あと、さつま芋のモンブランも四人分追加で!」
そして、神影が代表して馴れた様子で、通りすがりに注文を済ませる。
四人掛けのテーブルに、男女に別れて腰を下ろす。
「いやぁ〜、楽しみだなぁ〜」
神影は、メニューを開いて、新商品のさつま芋のモンブランの写真を眺めてご満悦だ。
「それにしても、俺、憧れてたんだよ。所謂、常連ってやつ? いつもので、オーダーが通っちまうような」
「それは、僕も分かるなぁ。でも、巡り合わせって凄いよね。だってきっと、言の葉部が無かったら、ここに来ようとは、思わなかったもん」
洸は、そう遠くない過去に思い馳せる。
「最初はどうなるかと思ったけど、ここまで来ることができたんだね〜」
「いや部長さん、回想はまだ早いだろ」
「だね。変な満足感が溢れてきちゃって」
「まぁ、気持ちはわかるけどよ」
そんな洸と尚人の会話のピリオドを伺っていたかのように、ウエイトレスがドリンクを運んでくる。
それぞれが代わり映えのない味を堪能する。
そうしているうちに、お目当てのさつま芋のモンブランが運ばれてくる。
待ってましたとばかりに、すぐにフォークを手に取り、側面を掬う神影。
濃い黄色が秋の幸せを伝え、指先の重みに期待を込めて、口の中へ運ぶ。
「んん〜!!」
モンブランが舌についた瞬間、そんな唸りを上げる。
「めちゃくちゃ美味しい! 甘さのバランスも良くて、さつま芋の優しさが、これでもかって詰まっていて、モンブランになっているから、舌触りよく溶けていくよ!」
そう表情に至福を写した神影の食レポを聞き終えて、三人もモンブランにフォークを通す。
「あら。本当に、美味しい」
「でしょ! でしょ!」
咲夜もまたその味が気に入ったらしく、一口一口を大事に堪能している。
一方の尚人は、僅か数口で、あっという間にモンブランを完食してしまう。
「ふ〜、これは定番になりそうだな〜」
「あんた、食うの早すぎじゃない? もっと味わえばいいのに」
「俺はな、うまいと思ったものは、手が止まらなくなる主義なんだよ。俺のこのスピードは、美味しさと比例しているということな!」
「ふ〜ん。なんか勿体無いな〜」
そういう神影は、ちびちびとフォークを動かしている。
「お前こそ、そんなちびちびしてて、味なんてわかるのか?」
「当たり前でしょ? この繊細の味を知るのには、これくらいがベストなの!」
「そんなもんかね〜? な? 洸?」
尚人は、コーヒーカップを傾けながら、隣の洸に視線を外す。
洸はというと、適度な量を口に運び、口に残る甘さを緩和させるように、ブラックコーヒーを一口という動作を繰り返していた。
「まぁ、人それぞれだよね〜」
そして、その時間を大切にするように、尚人への返答は、そんな簡易的なものだった。
「なんか、お前………丁度いいな……」
尚人と神影の間を潜るような、洸のペースを、尚人はそう称した。
「昔からよ。洸は昔から、容量が良いというか、最適解を見つけるのが上手なのよ。良くも悪くもね」
最後の一口を残して、ストレートティーで喉を潤していた咲夜は、昔馴染の観点からそう結論づける。