ーーー 夏休みも終わり。コンテストが約二ヶ月と迫る頃、代表に内定した咲夜は、時より詰まりながらも、比較的順調に筆を走らせていた。

どちらかといえば、補欠要員である、洸の方が、苦い表情を浮かべる事が多かった。

「そういえば、あれからどうなんだ? 合宿から帰った後は、暫く口を聞いてないって言ってたけど?」

部室では、原稿に向かう二人と、サポートという面目で、漫画を読む尚人、 勉学に勤しむ神影の姿があった。

基本、目の前のタスクに、一点集中で取り組む三人の中で、手持無沙汰な尚人は、ふと、神影に向かって、そんな疑問を口にした。

「うん! それがね! お母さん。今まで、自分の事ばかりで、神影の事ちゃんと見てこなかった。成績もみるみる上がっていったし、何よりも、言の葉部に入ってから、凄く生き生きとしているって、そんな姿を見過ごして、自分の理想を押し付けてごめんねって、そう言ってくれたんだ! だから、今は前よりももっと、家族が好きになった。本当に、良かった………」

神影は、一度ペンを置いて、胸の前で手を合わせて、噛み締めるように微笑んだ。

「ほへぇ〜。めでたしめでたしってか」

尚人は、漫画のページを止める事なく、空にも近い返事を返す。

「何よ! あんたが聞いといて! その反応はおかしくない?」

「いや、お前の様子を見ていれば、なんとなく予想ついてたし」

「なら何故聞いた!?」

「聞かないと、話さないだろ? 後は、無音で暇だったから」

「人の良い話を、暇つぶしにすんな!」

神影は、尚人の漫画を上から奪い取る。

「ぬわ!! 何すんだよ! 」

「あんたは、漫画ばっかり読んでないで、少しは勉強でもしたら!」

「あのな。人には人の良し悪しってのがあるんだよ。才能とも言い換える事ができるな。俺には、勉強という才能がまるで無いんだ!」

「勉強は才能と呼ばないから! あと、漫画を読む才能も皆無だから!」

「甘いな。漫画とは、想像力を養う力があるんだよ。これはきっと、将来的に、大きな武器となると思うぞ」

「想像力を養いたいなら、せめて小説を読みなさい! いや、漫画が悪いとは言わないけど!」

二人の小気味よい会話によって、部内は一気に活気づく。

「あはは。二人は本当に仲が良いね〜」

その様子をのほほんとして眺める洸。

「いやいや、お前さんが言うんじゃないよ」

「何その、プロ野球監督みたいな言い回し?」

「誤魔化すんじゃないよ。お前さんと咲夜、二人の方がよっぽど仲良しじゃないか?」

尚人は眉毛をクイッと上げて、煽るような態度をとる。

「う〜ん。まぁ、幼馴染だしね! 普通でしょ! 」

そんな尚人にも、あっけらかんとして答える洸。

「いやいや! 定石ってものがあってだな。男女の幼馴染。胃もたれするほど仲が良い。これはもう、幼馴染だから! で済まされる問題じゃないんだよ!」

「え? そんな、胃もたれするほどだったの?」

「まぁ、咲夜が上手く緩和させてるから、何とかなってるけど、そこが崩れたら、間違いなく食あたりする」

尚人はお腹を擦って、苦悶の表情を浮かべる。

「だってさ、どう思う? 普通だよね? 」

そう洸は、納得のいかない様子で咲夜に問う。

「まぁ、等身大に言えば、幼馴染だからって、友達以上になるというのは、考えにくいでしょうね。フィクションの世界ならば、お決まりなのだろうけど。寧ろ、フィクションでお決まりなのは、現実味がないから、理想を描いているとも言えるわよね」

「あはは……だね」

そんな咲夜の返答に、無意識に起伏を分かりやすく、声を沈める事で表現する洸。

「まぁでも。あくまでも、等身大は等身大であって、それが絶対ではないわ。それに当てはまらない人だっている」

しかし、次に発せられた咲夜の言葉によって、再び、無垢な笑みを浮かべ、「そうだよね!」と声を弾ませる洸。

一方の咲夜は、視線を原稿から外す事はないが、筆を止めて、少し頬を赤らめていた。