咲夜の眼前に映ったのは二つの影。

「ごめんね。咲夜ちゃんが、出ていくのを見ていて、気になって、後をつけてきちゃった。と、言っても、探すのにちょっと、戸惑ったけどね」

神影が額に汗を滲ませながら微笑む。

「まぁ、俺は寝つくのは早いけど、割と敏感でな、洸が起きた事に気づいて、あとは以下同文」

尚人は、大きな欠伸をひとつ披露する。

「それで? 何の話をしていたの〜?」

親しげに並ぶ咲夜と洸に、悪戯っ子のような笑みを浴びせる神影。

「何のって言われてもね〜」

「何よ〜濁すと余計に怪しいぞ〜」

神影は、楽しそうに詮索を続ける。

「そうね」

そんな日常を薄い唇を横に小さく広げて見ていた咲夜は、そう呟いた。

辛うじて聞こえたその声に、三人の視線が咲夜に集中する。

「私。出てみようと思うわ。コンテストに」

「え?」

思いがけない言葉に、神影も無意識に声を漏らしていた。

「え?って、あなたが推薦したんじゃない。今更、やっぱりなしなんて、言わないわよね?」

「ううん! 言わない! 言わないけど、その、無理させちゃってないかなって。私に気を遣って、決めてくれたのかと思って」

「そんな訳ないじゃない。自分で言うのはなんだけど、私は、さっぱりしている人間よ。嫌なものは嫌って言うし、嫌いな物は嫌いって、ちゃんと言うわ。だから、これは私の意志よ。だから、その………。迷惑だなんて、思わないわ」

最後の最後に、照れ隠しで視線左側にずらす咲夜。

「咲夜ちゃん………っぐ」

次の瞬間、ブワッと涙を溢れさせる神影。まるでハイライトかのように、昼下りと同じ泣き顔だ。

「おいおい! また泣くのかよ! まぁ、これも青春ってやつか」

「うん! もう、それでいい! ってか、ソレだよぉぉぉ!!」

尚人がおどけて放った言葉は、尚人の思惑通りとはいかずに、神影に肯定されてしまう。

「あれ? あれ? あれ!?」

尚人は、予想外の展開に分かりやすく動揺する。

「あはは! ほんとに騒がしい人達だ! あはは!」

それを見ていた洸は、嬉しそうに声を上げて笑う。

その隣で柔らかく微笑む咲夜は、小さく「ありがとう」と呟いた。

微かなその声も、涼風に運ばれて、洸の耳へと届いていく。

その声を受け取った洸は、盗み見るように、咲夜の横顔を覗いた。

月明かりに照らされて、久しぶりに見たその笑顔を、洸は綺麗だと感じた、温もる心に寄り添うようにして、目を細めた。