ーーー 夕食のカレーを食べて、駅前の銭湯へ行き、帰り際買った、お菓子で細やかなパーティが開かれていた。

「あいよ。これは、俺からの差し入れだ。ありがたく食えよ」

すっかり睡魔に打ち勝った千香は、値の張るアイスの入ったビニール袋を、四人が囲む机に置くと、自らは、別のビニール袋に入った、缶ビールやチューハイ、肴を取り出して、どかっと空いた椅子に腰をかける。

「未成年がいる所で、お酒ってどうなのよ?」

「あぁ? 漆原、何か言ったか? 」

「い、いえ。何でも………。アイス、ありがとうございます」

千香の堅気とは思えない圧力に、大きな体を縮こめる尚人。

「それで? 流石に、そろそろ、代表者が決まった頃だろうな?」

その千香の言葉に、お菓子に手を伸ばしていた洸の手は止まり、アイスにスプーンを突き刺して、顔を青ざめる尚人。

スティック状のチョコレートのお菓子を、尖らせた口に咥えて、目を見開く神影、通常運転で、涼し気に紙パックのミルクティーを、ストローで流し込む咲耶。

千香は、缶ビールを煽る。

「はぁ〜。あのな。もう3ヶ月くらいしかないんだわ。わかるよな? このまま、最悪の結果になった場合、一番、被害を被るのは、お前らじゃなくて、他でもない俺だ。分かるよな?」

千香の、獲物を狩るチーターのような鋭い視線が、尚人から順に向けられる。

「いやぁ〜、もうすぐ、もうすぐ決まりそうなんすよ! な、なぁ? 」

取り繕った笑顔で武装した尚人と、視線を交わらせる者はいない。

「あ、はい! はい!」

結果、千香の視線を一身に受けていた尚人だったが、次に無邪気に挙手をした神影より救われる。

「私、思った事があったんだけど、咲耶ちゃんが、代表になれば良いんじゃないかな?」

「え?」

突然の申し出に、咲耶はその一言のみしか声に出せない。

「ほ〜ん。その根拠はあるんだろうな?」

千香は真意を探るように、神影を真っ直ぐに見据える。

「はい。実はさっき、屋上で話をした時に、思ったんです。あの時の真っ直ぐな言葉とか、咲耶ちゃんだから、強く届ける事のできる想いとか、完全に感覚的な事がなので、上手く言えないのですが、咲耶ちゃんの言葉には、色がついて見えるんです。言葉が生きている。そう感じたんです! だから、どう? かな? 」

神影は、咲耶の有名な絵画のように整った横顔、おずおずと視界に捉える。

「そう感じたのは、私が、あなたに、あなたの状況から察して、私の経験を踏まえた言葉だったから。あなたにも、心当たりがある言葉を投げられれば、嫌でも、そんな風に思ってしまうものよ」

すまし顔のまま、あっさりとした返答をする神影。

「うん。確かにそうかもしれない。でも、それが全部じゃない。そこには、純粋な、咲耶ちゃんの気持ちだって、含まれていたんじゃないかな? それは、私にも心当たりがあっても、ただ似て非なるもの。私の知らない景色。私たち、それぞれがそうであるように、咲耶ちゃんにも、咲耶ちゃんにしか見てない世界がある。その、力強さで言えば、私は、このメンバーの中で、ずば抜けて、咲耶ちゃんが一番だと思うんだ」

神影は、チョコレートの入っていた空箱を、潰す程に強く手を握りしめて、熱の入った言葉で弁ずる。

「悪いけど、詭弁にしか聞こえないわ。そんな綺麗事で包んだ言葉で、私は動かないわよ」

しかし、そんな熱弁も虚しく、咲耶は冷たく突き放した。

そこで、ずっと続いていた、和気藹々とした空気が一変する。

亀裂は入りはしなくとも、確かに、咲耶と神影の間に、切り取り線が刻まれた瞬間だった。

「えっと………。ま、まぁ。神影の意見も、大切な一つの案だと思うし、皆が納得した形で、代表者は決めたいし、と、とりあえず、今の案は持ち帰りって事で!」

上手く場を取り繕うと、笑みの仮面を纏った洸。

「そうだな! と、り、あ、え、ず! 溶けちまう前に、アイスを頂こうぜ! 」

それに合わせるように、明るく振る舞う尚人。

千香は、事の成り行きには、さほど興味も無さそうな表情で、缶チューハイを嗜んでいた。